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69.かわいいあの子を思いながら
俺の足取りは軽かった。
職員室への呼び出しなんて不吉な予感しかしないが、それでも俺、猫野チェシーの機嫌は上々だった。
周りから心配や同情の目を向けられるが、当の本人は鼻歌でも歌い出しそうな心情だ。
先程のルイを思い出す。
行かせたくない、そう物語るように俺を掴む小さな手。
不安気に揺れる瞳は上目遣いで俺を見る。
俺を心配する健気な可愛さに、吸い込まれる様に口づけた。
小さくて、柔らかくて、とろけるほど甘くて、すぐに離してしまわないとそのまま全部食べてしまいそうだった。
「……可愛かった……」
見開かれた瞳は驚きと困惑が分かりやすいほど浮かんでいて、二人きりの状況の中で無防備でかわいいルイを襲わなかった自分を褒めてやりたい。
あの小さな体を組み敷いて深く口づけて服の中を思う存分弄ってトロトロにとかしたルイの中に欲望を吐き出す妄想をいったい何度しただろう。
下半身に熱が集まりそうになって慌てて脳裏に浮かんでいたあられもない姿のルイを消し去り、職員室のドアをノックした。
職員室に入ると更に奥にある部屋へと通され、そこには生活指導の教師と部活の顧問が待ち受けていた。
「何で呼び出されたか分かるか?」
向かいのソファーに座るよう促されて、腰を下ろすと同時に訊かれた。
「いやさっぱりっす。部活のキャプテンやれとか? 嫌っすよ俺一年なのに」
「どんだけポジティブなんだよお前……」
はぁ……とわざとらしいため息を吐いた部活の顧問が、横から大きなスポーツバッグを取り出す。
まさか、と嫌な予感が脳裏をよぎった。
「あのな、お前のバッグからビールとタバコが出てきたんだが?」
「はい? 知らねっすよ!」
やはりかと思いながら俺は強く否定する。実際に俺はそんな物を入れた記憶はないのだから。
「だがお前のバッグに入っていたのは事実だ」
「……俺のバッグどこにあったんすか?」
「部室だよ」
「俺、荷物は全部鍵のかかるロッカーに入れてましたけど。部室には置いてねぇし……」
アリスからの警告に警戒していたつもりだったが、まだ詰めが甘かったようだ。
己の甘さに舌打ちしそうになった。
「でもこれお前のスポーツバッグだろ?」
掲げられた大きなスポーツバッグは確かに自分の名前が書かれており、そして間違いなく自分の物だ。
「とにかくコレは預かっておくからな。テニス部のエースだってのに何馬鹿な事してんだ……」
「だから俺じゃねぇっての!」
「ここで話しても水掛け論にしかならんだろ。処分は追って伝えるからもう教室に戻れ」
「…………」
まるで聞く耳を持たない教師達に腹がたったが、ここで何を言ったところで状況は変わらないのだろう。
色々と言いたい事をグッと飲み込み、大股で部屋を後にした。
その後向かったのは教室ではなくロッカー室。案の定、俺のロッカーの鍵は開けられていた。
「くっそ……やられた」
アリスからの話で犯人はおおよそ目星はついている。だが、証拠がない。
このまま処分が決まれば、俺は退部になるだろう。それだけならまだしも、俺は退部になったら流れで退学になりかねない。
なぜなら俺はスポーツ推薦で入学したからだ。
退学になったら、もうルイと会えなくなる。まだキスしかしていないのに。
「何とかしねぇと……」
焦る気持ちの中でルイとの甘いキスを思い出し、少しニヤけながら対策を考えるのだった。
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