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81.それが真実だとしたらとてつもなく迷惑な話で
視線を泳がせながらもしどろもどろで何かを伝えようとする彼に首を傾げる。
この人は本当に先程大声で叫んでいた人だろうか。
「あの……」
「ひゃい!」
挙動不審なのは人気者達の前で緊張しているから?
しかし消してやると怒鳴りつけていた相手に今更緊張するだろうか。
なぜ何故どうして、と分からない事だらけの頭で彼に向き合い近づこうとすれば相手も慌てたように一歩後ずさった。ああ、やはりそうとう俺が嫌いらしい。
「改めて訊くけど、何でみんなを消すなんて言ったんですか?」
「いや、それは、だから……」
「俺が嫌いなら、俺に言ってほしい……みんなを巻き込まないでください」
「……っ、だから違うっ!!」
違うのだと叫びながら俺を見てきて、しかしハッとしたようにまた顔をそらされて真っ赤になってうつむく。
黙ってしまった彼のかわりに夢野が口を開いた。
「あのねルイ、この集まりはルイのファンクラブなんだ」
「は?」
夢野が彼のかわりに説明しようとしてくれているようだが、俺は夢野の言葉の半分、いやほぼ全部理解出来なかった。
「みーんなルイの事が好きすぎて他の人に取られたくなくて集まった人達だよ」
「何言ってるのアリス? そんなわけ無いだろ」
これはアレだろうか。やはり良くある鈍感主人公が人の好意に気づかず勘違いしてしまうってやつだろうか。
駄目だよアリスくん、そんな鈍感だと付け込まれてしまうよ。やはり俺が守らないと。
「ルイはさ、この中で前から見覚えのある人いる?」
「え? えーと……」
言われて、倒れた人達や未だ挙動不審な彼、ずっとスマートフォンを向けている人まで見渡して、気づく。
「あ……中学が同じ人も居るみたい」
「じゃあその頃からか……」
「おい! それ以上話す──っ」
「はーい、ちょっと黙ってような? あ、これは暴力じゃないからな」
夢野が更に言葉を続けようとすると、彼は何故か慌てた様にこちらに来ようとして猫野に阻止される。
そのまま口を塞がれて「んーんー!」言っている彼を無視して夢野が続けた。
「中学の頃から知ってる人が居るんだよね?」
「え? あ、うん……今話してた人もそうだったと思うよ。話した事は無いしあまり人の顔見ないようにしてたから気づかなかったけど」
必死で猫野から逃れようと暴れている彼が気になったが、夢野はそんなものはじめから存在しないように平然と話すから少し怖い。これも鈍感主人公の為せるわざなのか。
「じゃあきっとその頃からなんじゃないかなぁ」
「何が?」
「ルイが一人ぼっちになったの」
「……どう言うこと?」
俺が訊けば猫野に拘束された彼が更に暴れたけれど、今はそんな事に気を取られている時じゃない。
今、とんでもなく重要な話をされている気がしたから。
「…………」
しかし、夢野から聞かされた話はあまりにも現実離れしていて、到底信じられるものでは無かった。
だけど、信じられなくても思い当たる事が無いわけでは無くて、そんな訳ないだろと否定しても考えれば考える程に辻褄が合ってしまう。
「……今の話、本当なんですか?」
俺が尋ねれば、猫野は手を離し自由になった彼は俺と向き合う。
「あ……あなたの為なんです……」
否定の言葉を期待していた俺に、無情にも肯定と取れる言葉が返ってくる。
何だそれ。
「何だよそれ……」
夢野の話、彼の肯定に、今までの学生生活が走馬灯のように駆け巡った。
「……俺はそんな事望んでない」
一人、また一人と友人が減っていき、訳も分からぬまま独りポツンと過ごす日々になった。
頑張って誰かと話そうとすれば必ず邪魔が入るようになり、どんどん惨めな気持ちになった。
次第に傷つくのが怖くて、誰かと関わるのを諦めて独りでいる事が当たり前になって、でも時折ふと寂しさを思い出して悲しくなって……。
この学園に入学してから久しぶりに友人が出来てどれだけ嬉しかったか彼に分かるだろうか。
自分に話しかけてくれる、笑いかけてくれる、名前を呼んでくれる、それをどれだけ俺が望んでいたか、きっと分からないのだろう。
だから、それが途切れたりあからさまに阻害された時、どれだけ悲しかったか、分かりはしないのだろう。
悔しくて、腹が立って、悲しくて、そんな事をされる自分が惨めで、俺は湧き上がるドロドロとした感情をそのまま視線に乗せて彼を睨めば、ビクリと体を揺らし彼は慌てた様に口を開いた。
「あ、あなたは理解してないんだ! 自分がどれだけ魅力があるのかを! だから私達は……」
「……迷惑な」
「……っ!!!!」
彼が息を呑むのが分かった。
いつの間にか先輩にのされていた人達も数人起き上がり出していたが、目の前の彼と同じように絶句していた。
「俺の為って……何が俺の為なのか全然分からないし……」
悲しくて腹が立って惨めな思いをするのが俺の為?
「中学の時から見覚えのある人も居るって事は、そんな前から迷惑行為をしてたの?」
俺の言葉に泣きそうな顔をする彼らだが、泣きたいのはこちらの方だ。
「何でそこまで俺に執着して迷惑な嫌がらせをするのか知らないけど、いい加減止めてください。気持ち悪い……!」
俺が思った事を包み隠さず言い切れば辺りは静まり返って、自分の心臓の音だけが耳についた。
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