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【二章】1.夢にまで見て、諦めていたコト

  「おはよう木戸くん!」 「お……おはよう……」 「ルイさん! あの……おはようございます!」 「えっと、おはようございます」  寮から校舎への短い登校の間に何人もの生徒から声をかけられる。  良くわからない信者のような人達が一網打尽になったあの日から数日後、少しずつ俺に声をかけてくれる人が増えてきたのだ。  嬉しい反面、未だに慣れない俺は戸惑ってしまいなかなかスマートに返事が出来ないでいる。でも、話しかけてもらえるのはやっぱり嬉しい。 「ルーイちゃん! おはよ!」 「ルイおはよう!」 「チエおはよう。アリスもおはよ……もう二人とも夏服なんだね」  背後から元気よく声をかけられ、ついでに腰と肩に腕を回してきた友人二人は上着を脱いだ半袖のワイシャツ姿だった。 「ルイはまだ上着着てるんだね。暑くないの?」  俺が知る限りでこのBLゲーム世界の主人公である夢野アリスは主役らしい可愛い笑顔で俺に訊く。 「うん、ちょっと暑くなってきたかな……明日から俺も夏服にするよ」 「そうしなよ。薄着になったルイを邪な目で見てくる奴からは僕が守ってあげるから」 「ん? うん、ありがとう……?」  天使のような顔で何やら物騒な事を言っているが、やはり恋愛ゲームの主人公あるあるで天然で無自覚なんだろうな。  俺なんかよりアリスの方が危ないと思うけど気づいてないのだろう。  自分よりも他の人の心配ばかりするアリスはやっぱり優しくて天使だ。俺がちゃんと守らなくては……。 「ルイちゃん俺も俺も! ずーっとルイちゃんのそばにいて守ってやるからな!」 「ははは……ありがとチエ」  BLゲームの主要キャラクターである爽やかスポーツマンの猫野チェシーが爽やかな笑顔で言ってくるから一応礼を言っておいた。  きっとアリスと一緒に居たいが為の口実だろう。いつか伝わると良いね。  でもきっとストレートに想いを伝えないと分からないと思うよチエ。  以前は人気者の二人に話しかけられても直ぐに引き剥がされていた為に朝は挨拶を交わすぐらいしか出来なかったが、今は一緒に教室まで行けるようになった。 「おはよう猫野! それと……き、きき木戸くんおはようっ……」 「お前きょどり過ぎだろ」 「やっほーアリスくんおはよう! あと、ルイくんおはよう握手してください!」 「代わりに僕がしてあげるー。ルイの隣に座んないでくれるかな?」  教室に着くと相変わらず二人のファンが寄ってくるが、その人達も俺に声をかけてくれるようになった。  そしてそのまま輪の中に入れてくれるのだ。  大勢の同級生と和気あいあいとしながらくだらない話で笑い合う。夢にまで見て、でももう諦めていた友人と過ごす学生生活。  それが現実になった今、楽しくて幸せで、まだ信じられない気持ちもあるけれどこの些細な幸福を大切にしようと思う。  

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