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11.俺のフランクフルト
「はいじゃあルイ、あーん」
チョコバナナを受け取った夢野は、そのまま俺の口元にチョコバナナを持ってきて食べさせようとしてくるから驚いた。
「え!? 最初はアリスから食べていいよ!」
「最初はルイから食べて欲しいんだよ」
一度は遠慮したものの、夢野からそう言われてしまえば何も言い返せず、じゃあ遠慮なくとチョコバナナを受け取ろうとしたら夢野が首を振った。
「このまま僕の手から食べて欲しいなぁ」
「ええー……ちょっと食べにくいんだけど……」
俺が困った顔で言っても夢野は譲らず、何のこだわりがあるのだろうかと思いながらも仕方なく目の前に差し出されているチョコバナナを頬張った。
夢野の食べる分が無くならないように少しだけ食べる予定だったのに、夢野からわりと口の奥まで入れられてしまい焦る。
たくさん食べさせてあげたいって言う夢野の優しさなのだろうが、そこまで入れられると少し苦しいし噛み切るのも一苦労だ。
そして見られてる。物凄く見られてる。夢野からも反対側に居る猫野からも……。
おまけに物凄く近いよ二人とも。そんなに密着しなくてもいいじゃないか。色んな意味で食べづらいったらない。
「……ルイ、美味しい?」
「ん……美味しいよ」
何とか噛み切って口をもぐもぐさせながら夢野に答える。
口の縁にチョコが付いているのは分かっているが口の中のチョコバナナで手いっぱいで拭えずにいたら夢野が親指で拭ってくれて、そのままペロリと舐められた。
「うん……美味しいね」
「…………っ」
親指を舐めながら綺麗な笑顔でそんな事を言うものだからその色気に一気に顔に熱が集まってしまった。
危険だこの主人公。しっかり守らないとすぐ襲われちゃうぞ。
「ルイちゃんこっちも! フランクフルトも食べてみてよ!」
「う、うん……食べるからちょっと待って……」
夢野の艶美な微笑みに見惚れていたら、隣で猫野から妙に急かされて慌ててチョコバナナを飲み込んだ。
そしてフランクフルトを受け取ろうとしたらやはり猫野もそのまま自分の手から食べるよう促してくる。
「あのさ猫野……せめて横向けてくれない?」
仕方なくそのまま食べようとするが、大きなフランクフルトを先端からかぶりつくのは難しくて横から食べさせてくれと頼むがそこも猫野は譲らない。
「大丈夫大丈夫! パクっといっちゃえよルイちゃん!」
「んー、でもおっきいから入らないかも……」
「……っ!!」
猫野が急に息をつまらせ前屈みになる。
「どしたの!? 大丈夫?」
急に便意にでも襲われたのだろうかと心配する俺の横で、夢野がやたら冷めた視線を猫野に送っていた。
「だ、大丈夫……とりあえずルイちゃん、パクっとどうぞ……!」
少し苦しげだが決してフランクフルトは離さずに俺に食べさせようとするからなるべく大きく口を開けてフランクフルトにかぶりついた。早く食べてあげないと猫野が漏らしてしまうかもしれない。
なのにまたもや猫野がぐいぐいと押し付けてくるものだからなかなか噛み切れずに苦戦してしまう。
夢野もそうだったがそんなに食べさせようとしなくて良いのに。
そしてやっぱり二人ともガン見しすぎだ。
「……お、美味しい? 俺のフランクフルト……」
何とか一口食べられたが、何故か至近距離で鼻息あらく訊いて来る猫野に引いていたら夢野が猫野の頭を叩いた。
いくら友人だからっておかめメイクな上に血走った目で迫られながら鼻息荒くされたら怖いだろう。夢野には感謝である。
「うん……美味しかったけど……やっぱりおっきいからちょっとしか入らなかったよ」
「ぐは……っ!!」
俺が頑張って飲み込んでいる横で更に猫野が苦しげな声を上げてとうとう片手で顔を覆って突っ伏してしまった。そんな猫野は心なしか震えている。
これはいよいよ便意が我慢の限界に近づいているらしい。
「チエ大丈夫っ!?」
「ちょっ、ちょっとトイレ行ってくるわ俺……っ!!」
「うんいってらっしゃい!」
よっぽど切羽詰まっているのだろう。
前屈みのまま、おかめメイクをしていても分るぐらいに顔を真っ赤にしてトイレに駆けていく猫野を心配しながら見守った。
「堪え性がないなぁチエは……」
隣でボソリと夢野が呟くが、急な便意に耐えられる人は少ないだろう。
フランクフルトをしっかり握ったままだったが預かってあげたほうが良かっただろうか。
「良いんじゃない? 今頃美味しくいただいてるよ」
そう言いながら猫野を心配する様子もなく夢野が残りのチョコバナナを美味しそうに食べるものだから、俺も見習ってサービスしてもらったたこ焼きを頬張った。
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