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第18話 本当の気持ち④

 ──夢を見た。  アルと、青い空の下をふたりで手を繋いで歩いている。アルの顔は、日差しが眩しくてよく見えないけれど、俺は嬉しくって嬉しくって、弾むようにしてどこまでも続く草原を歩いていた。  目が覚めると、辺りは真っ暗で夜になっていた。やはり夢だったと思うと、深い溜息が溢れる。  抱き締めていた本を机の上に起き、ベッドから下りて部屋を出た。  と、広間のテーブルの上に、パンと水、冷めた野菜のスープが置いてあり、「腹が空いていたら食べるように」と紙に書かれていた。スウードだろう。  生き物とは不思議で、どんな状況でも平等に腹は空くし、腹の虫は鳴く。ぐうと大きな音を立てた自分にがっかりするが、パンを千切ってスープに浸して食べた。  どうしてだろう、味がしない。ただ腹を満たすために食べた。  食べ終わって、広間から窓の外を見た。塀の向こうには明かりがたくさん灯っていて、小さな点くらいにしか見えないけれど、獣人達が動いているのが分かる。きっと、皆お祭りを楽しんでいるのだろう。  カーニヴァルが終われば、俺はここを出ていくことになる。そして、あの塀の向こうから、この塔を見上げて暮らすのだ。アルが番となった相手と、幸せに暮らしていれば良いなと思いながら。  ポケットの中に手を入れる。まだたくさんの木の実が部屋の棚にもある。二週間以上は必要がないはずなのに。もしかしたら、塔を出た後のことも考えてくれていたのだろうか。  そういえば塔の出入口には鍵が掛かっていなかった。アルはきっと、俺がいつでも逃げ出せるようにと思ってそうしたのだろう。居なくなってしまっても、構わないから。  ──αである王は彼らの発情期の誘引に負けて、淫蕩に耽った。  ──番が居る状態なら、他のΩの誘引も効き難くなる。  アルとスウードの話を思い出す。つまり、Ωが発情期(ヒート)の状態になれば、αを誘引することができるということだ。  八代目の王が塔にこもることを選んだのは、Ωとの接触を絶たなければならないほど抗えないものなのだろう。  だとしたら……俺がアルと番になるためには、一つしか方法がない。  俺は自室に戻り、ポケットの中の木の実と棚にしまっていた木の実を集めた。そして窓を開けて、外に放り投げた。  スウードに一日がかりで採って来てもらったものだから心が痛んだけれど。俺には決意が必要だった。これは、亡き母との約束を破ることにもなるから。  窓から風が吹き込んだ。風が湿っているから、明日は雨が降りそうだなと思う。空を見上げると、少し欠けた月が見えた。  発情期(ヒート)がどういうものなのか、これから自分がどうなるのか──そしてその時、アルは俺を番に選んでくれるのか。  不安に押しつぶされそうになりながら、薄い雲が掛かり始めた夜空を見詰めた。

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