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第21話 気高き羊王と運命の番③

 寝入ってからどれくらい経ったのか、寝苦しさを覚えて目を覚ました。そして、自分に起こっている異変に気付いた。身体が異常なほど熱くなっていて、呼吸が荒い。小さい頃熱を出したことがあったが、その時とはまた違う熱だった。  身体の奥から湧き上がってくるような、初めての感覚に混乱した。そして、このどうしようもない熱から、何とかして逃れたいと強く願った。  ――助けて。  思い浮かべたのは、アルだった。  窓の外はまだ暗闇に包まれている。この部屋から出て二階の寝室に眠っているアルのところまで行けば、助けてくれるのではないか。とにかく部屋から出ないと。しかし、身体は思うように動かない。 「っ……あっ、ぐ……!」  無理矢理身体を起こしたが、起き上がりざまにベッドから転げ落ちた。ほとんど手足に力が入らない。これほど動けないぐらい弱ったことはない。  でも行かなければ、と思う。アルのところに辿り着かなければ、と。  床を這いずりながら、息も絶え絶えにドアに向かって進む。上体を何とか起こしてドアノブに手を伸ばす。掴んだ瞬間、体重を掛けてドアを押すと、前のめりに倒れ込むように部屋から出た。  スウードが点けていたろうそくの火がまだ灯っていた。目の前の広間、そして奥の階段を見る。とてもじゃないが、這いながら階段を上ってドアを開けて、上の階の広間を横切り、一番奥にあるアルの寝室に辿り着くことができるとは思えない。 「っ……アル……!」  熱い、苦しい。一歩も動けなくなって蹲る。このまま死ぬのかもしれない。こわい。助けて――。 「ロポ……!」  声が聞こえて、息を切らしながら顔を上げる。階段を駆け下りてくるその姿を見て、思わず涙が出そうになった。が、アルは俺の側には近づいて来なかった。広間の端から驚いたように俺を見詰めている。 「……何故、発情している……」 「発、情……?」  そう言われてようやくこの身体の異変が何なのかを理解した。これが――「発情期(ヒート)」。 「実を、摂り忘れたのか……?」  摂り忘れたんじゃない、自分の意志で食べなかった。アルと番になるためにΩの俺ができる、唯一の方法だと思ったから。けれど、これほど苦しいとは思わなかった。動くことも話すことも上手くできないだなんて。 「スウードを――いや、αを近付けるわけには……」  ろうそくの明かりに照らされた、アルの白い姿がぼんやりと見える。表情ははっきりと分からないが、いつもより落ち着きが無いように思えた。 「……食べ、なかった……」 「何……?」  伝えなければ、自分の気持ちを。次に太陽が昇って沈む頃には、俺はアルと話すことさえできなくなってしまうのだから。 「アルが……好き、だから……一緒に、居たい……から……!」  アルの側に行きたい。何とか力を振り絞り、身体を引き摺って少しだけアルの方に進んだ。 「それ以上近づくなッ……!」  声を荒げて、アルが叫んだ。今まで見たこともない様子に、動きを止める。 「俺っ……アルとっ、番になり、たい……! 一緒に居たいっ……!」  アルは口と鼻を手の甲で押さえながら、鋭い眼で俺を睨むように見詰めた。 「……私はお前を、ロポを番にしない」  発情期(ヒート)の苦しさと、アルが俺のことを拒絶していることへの悲しみと、卑怯な真似をしてアルを自分のものにしようとしていることへの罪悪感とで涙が溢れ、ぽろぽろと零れ落ちた。 「私は……失うと分かっているものに手を伸ばさぬ。失った時の苦しみがどれほどのものか、前女王はその身をもって私に教えたのだ」  番関係を解かれて、離れ離れになって、二度と会うことなく亡くなったふたり。アルは母親の姿を見てその悲しみと苦しみを知ったのだ。だから、両親と同じ運命を歩むことを恐れている。 「……俺はっ、アルから離れないよっ……!」 「嘘を吐くな!」

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