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第45話 秘められた真実⑥
花街を歩くのもさほど緊張しなくなってきた。というのも、全く客引きされることがなくなったからだ。
どうやらあらゆる店の人に僕が「ルシュディーの客」だという認識があるらしい。何となく複雑な気分だが間違ってはいないし、声を掛けられるのではとびくびくしなくて良いのは都合が良いのだけれど。ただ顔が知られているというのはなかなか気不味いし、陛下に迷惑が掛からないか心配になる。
店に着くと、いつも店先に立っている用心棒のマタルの姿が無かった。今まで居なかったことがなかったから、何か店で揉め事でもあったのだろうかと心配になる。
訝しく思いながら、戸を開けようとした瞬間だった。戸が勢いよく開き、白い塊が突然目の前に飛び出してきて、思わず一歩後退りする。
それが、初めに会った時から姿を見ていなかったが、ルシュディーの同僚のミーナーだと分かった。
「ちょっとツラ貸せ」
以前見た時は小柄で可愛らしい印象に思えたが、今は怒りを隠さず、鬼のような形相で僕を睨みつけている。
何か店に迷惑をかけるようなことをしただろうか。思い当たる節が無いが、ミーナーの後ろからついていくと、店の横道から薄暗い通りに入っていった。
と、唐突に立ち止まって振り返ったミーナーに、危うくぶつかりそうになって前がかりになる。
「あんたどういうつもりなんだよ」
「……え?」
「ルシのことだよ! 最後まで面倒見る気あんのかって聞いてんだよッ!」
何の話をしているのか分からない。目を瞬かせると、ミーナーはふわふわの白い毛に覆われた頭を苛立ったように掻き、深い溜息を吐いて何かを独りごちた。
「ルシに会うの、もうやめてくんない? あいつは俺みたいなのとは違うんだよ」
「……何の話をしているのか分からないが、僕はルシュディーに両親について調べてもらっているだけだ。そのことが終われば、僕がこの店に来る理由は無くなる」
そう、この店に来ることは──。どうしてか胸がちくりと痛んだ。
「じゃあ今日おやっさんと大姐さんから話があるだろうから、もう用はないよな?」
「話の内容次第だが……その可能性はある」
ぽんとミーナーは僕の腕を叩いて、「ルシには後でそう伝えとく」と僕の横を通り抜ける。と、咄嗟にミーナーの腕を掴んだ。どうしても腑に落ちないことがあったからだ。
「僕をルシュディーから遠ざけたいのは何でなんだ? 何か理由があるなら教えて欲しい」
小馬鹿にするような呆れ顔で僕を見た後、また溜息を吐いて僕の手を振り払った。
「俺は高級羊毛で有名なメリノのΩのくせに獣化できなくてさ。親に役立たずの烙印押されてこの娼館に売られたんだ。家には居場所がなかったけど、ここだとチヤホヤされるし、他人に触られるのも気持ちいいことも大好きだし、ぶっちゃけ天職って感じ?」
ミーナーの生い立ちは笑って話せるようなものではなかったが、彼は自分自身にとって「どうでもいいこと」だと認識しているのだろう。感情の起伏がない平坦な声で語った。
「でもあいつは俺とは違う。親がΩの娼夫で自分も同じΩだったから、娼夫になる以外無かった。身体売るのだって本当は嫌なんだ。絶対ルシはそんなこと言わないけどね」
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