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V.S 12
男は平然と帰ってきた。
「後、敵は40人。でも、戦闘力のないヤツもいるから実質30人ってとこか」
なんでもないことのように言う。
男はバリケードの向こうを見つめる。
そこに敵がいる。
男を見るとマグマのようにのたうつ想いが胸の奥で渦をまく。
それを飲み込む。
今は敵のことだけ考えろ。
自分に言い聞かす。
柔らかに男に笑いかけられた。
まるで親しい友人であるかのように肩を抱かれて囁かれる。
「面白いモノが来てるぞ」
その声の調子が本当に楽しそうだったため、男が指差す方を見た。
隊列を組み近づいてくる集団。
「・・・どういうつもりだ」
私は男に対する苛立ちも、これから先への対応への悩みも吹き飛んだ。
そこには、武装した部隊がこちらへ向かって来るのが見えた。
50名ほどか。
見たことのない服装だ。
警察か自衛隊か、それとも、我々のような特別組織か。
わからないが、我々の管轄を土足で踏みにじりに来ていることは確かだった。
「ふざけるな」
部下を殺してまで、やっているところに。
「室長、連絡が入ってます」
部下の声。
嫌な予感がした。
「・・・バカどもがくだらないことをし始めたぞ」
男が見透かすように笑い、私もそうなのだろうと思った。
権力闘争だ。
今回の捕食者は派手な能力じゃない。目に見えるない力で身体中に穴を空けたり、または巨大なクレーン車を放り投げ建物を壊したりするような能力ではない。
しかも、派手に殺し回ってはいない。
だから、どこかが野心を出した。
殺せなくても捕らえられる捕食者ではないかと。
しかも今回彼らは派手に名前を売った。
彼らを取り押さえられたならそれは大きなアピールになる。
自分達が捕食者を始末出来れば、それだけ力を握れると。
我々から力を奪うために、部隊を派遣してきたのだ。
手柄を横取りするために。
ふざけるな。
こちらかどれだけ・・・。
だが、部下から渡された無線。
上からの指示は、その部隊に現場を渡すように、との指示だった。
それは、命令だった。
それは、絶対だった。
私は憤怒で死にそうだった。
私は部下まで殺したのに。
こんな時に。
男が言った。
「・・・丁度いい」
男は嬉しそうですらあった。
男にも撤退の要請でていた。
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