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V.S 20

 身体が再生するのには少し時間がかかった。  ゆっくりと起き上がった。  触手の化け物のなれの果てだけが転がっていた。  ボロボロに崩れた触手。  枯れ枝のように積み重なっていた。  ただ、液体窒素では全てを殺すのは無理だったようだ。  集合体ではなくなり生き残った者がいた。  身体が半分しかない女の子が泣いていた。  下半身がない。  後は身動きしない老人が一人。  老人は身体はあるが、動かず、横たわったままだ。  女の子も老人も裸だった。  女の子の胸の膨らみも露わだったが、残念ながら、僕には大して意味がない。  女は好きじゃない。  「苦しい・・・リーダー・・・助けて」  女の子は泣いていた。  嗜虐心が疼いた。  ゾクゾクした。  こいつら、散々僕を貫いたのだしな。  僕は右手を刀に変えて立ち上がった。  お返ししてやらなければ。   いたぶる分には、男でも女でも構わないんだ、僕は。  女の子は裸だが、僕だってそんなには変わらない。シャツなんかもうない。  でも、辛うじてズボンはなんとかズボンの役割を果たす程度には残っていた。  そして、後ろのポケットには例の銃も入っていた。  捕食者の動きを鈍らせる武器。  いたぶり楽しむ時間はないか・・・。  ここからが大変なんだからな。  冷静に判断する。  とりあえず、殺しておくか。  僕は女の子の前に立った。   「いや・・・助けて・・・」  女の子が僕を見て震えながら泣いた。  手だけで必至で這い、逃げる。  「・・・散々人に好きなことしてくれてソレかよ、ふざけんな」  本気で僕はブチ切れた。  どれだけ痛かったと。  何度身体の中えぐってくれたんだよ。  殺そうと右手を振り上げた時、声がした。  「やめろ!」  「やめろやボケ!」  ふたつの声が同時にした。  僕は目を疑った。  何でお前がここにいる。  手錠で繋いでいたはずなのに。  ガキだった。  犬と一緒に立っていた。  ・・・マンホールから来たのか。  女の子なんかどうでも良くなった。  僕は駆け寄った。  「何でここにいる!」  せっかく繋いだのに。  なんで。    身体が引き寄せられた。  ガキが怒った顔で僕を抱きしめたのだ。  「何で俺の知らないとこでボロボロになってんだよ、あんた」   怒鳴られた。  「え・・・」  僕は戸惑う。  てっきり、繋いだことや、今女の子を殺そうとしたことで怒られると思っていたのに。   「・・・何でこんなにボロボロなんだよ!」  ガキが泣きながら怒っていた。  僕を。  僕を。  僕を心配しているのか。  お前が絶対に許せないことをしてる僕を。  なのに。  僕も思わずガキを抱きしめ返してしまう。  どうしよう。   嬉しい、そう思ってしまった。  「・・・おい、こっちを無視すんなや」   声と足音がした。  おっと、真打ち登場だ。  「私かいることも忘れないでほしいがな」  犬がガキの隣りで呟いた。    ガキから身体を離す。   ガキは自分のシャツを脱いで、僕に着せかけた。  僕が上半身裸だからだ。   「あんたの身体を人に見られんの嫌だ」  ガキが言う。  シャツのボタンを上までとめられた。  へぇ。   思わず笑う。  独占欲が心地よい。   ガキは下に着ていたTシャツ一枚だ。   「・・・好き勝手してくれたやないか」  僕はその声の方を見た。  季節外れの派手なシャツを着た、金髪のソイツは上半身だけの女の子を抱き上げていた。  優しく抱きしめる姿も、その眼差しも、何もかもが気に入らなかった。  「ちょっと待っときな、全部終わるまで」  優しくソイツは言うと、女の子を隣にいた背の高い男に渡した。  コイツの相方。  「安全なところに。爺さんもつれていってやって」  女の子の髪を撫でながら言う。  「お前だけ残してか」  男は優しく女の子を受け止めたが、眉をひそめる。   「大丈夫や」  ソイツは笑った。  銃声がして、ガキの頭が撃ち抜かれ、ガキが倒れる。  これ位ではガキは死なないが、屋上にそういうヤツがいることは良くわかった。  老人か。  僕はガキを引きずり、物陰に飛び込む。  犬はとっくの昔に物陰に隠れていた。  「オレは一人やない」  ソイツは笑った。

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