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物語の終わり4

 俺はやっとのことで、あの人と別れた場所にたどり着いた。  6時間位かかってしまった・・・。  山、舐めてた。  不死身じゃなかったら死んでたかも・・・。  てか、死んでた。  いや、マジで。  絶対に一人で良く知りもしない山に入ってはいけない。  ホント。  陽が落ちる前に戻ってこれて良かった・・・。  まだあの人の車があってホッとした。  あの人は車にもたれかかるように立っていた。  「ゴメン!迷って・・・!山の中だから携帯もだめだったし・・・待たせて、ゴメン」   俺は走っていく。  そして、暗くなってきていて、よく分からなかったあの人の顔を見て、立ち止まる。  またそんな顔をして。  泣いてるよりも、そんな顔される方がたまらない。  ああ、もう。  俺は再び走りあの人を抱きしめた。    「ゴメン。約束より遅くなってゴメン」   俺は言う。   あの人の身体は震えている。  俺を強く抱きしめ返す。  「・・・待つのは嫌だ。もう、嫌だ」  繰り返された。   心配、したのか。  「ゴメン・・・もう、心配させないから」  俺は幸せな気持ちで謝る。  可愛い人。  可愛い人。  俺だけがこの人のこんな顔を知っている。  「僕を置いていくな」  あの人が言った。  その声の切実さ。  嬉しい。  嬉しい。  コレどうしよう。  「ゴメン。本当にゴメン」  俺は幸せだった。  この人は、俺に本音を見せてくれるようになってきた。  それが嬉しい。  俺に抱かれることも受け入れてくれたらいいけど、それはまだ時間がかかりそうだ。      まあいい。  時間はたっぷりあるし。    この人は殺人鬼だ。  週に一度の悪者殺しは続くだろう。  捕食者との戦いもこれからもあるだろう。  俺には受け入れられないことは続くだろう。  この人と俺はあまりにも違うから。      それでも、俺はこの人といるだろう。  捕食者とは何か、従属者とは何か。  それも何もわからない。  人間の世界の終わりを告げる者なのだろうか、俺達は。    分からない。    俺は正義の味方になれない。  叛逆の救世主にも。  でもいい。  俺はこの人の恋人にはなれる。  それでいい。  というよりそれがいい。  「愛してる」  俺は照れながら呟いた。  「うん」  あの人は頷いた。  END  

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