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物語の終わり3
部下からの報告があった。
少年と男が別々に行動している。
一人しかいないので、どちらを優先して監視すべきか、と。
そうか。
少年は知らない。
自分が監視されていることを。
なる程。
「捕食者を優先だ。危険度が高いのは彼だ。従属者は捕食者の元に戻ってきたかだけ報告しろ。あの男が手放すわけがないがな」
私は言った。
まあ、いい。
彼があの樹を気にしていたことも知っていたし、彼から色々質問されたことからつなぎ合わせれば、大体何をしているのかは分かる。
でも、それは私の管轄外だ。
私の責任ではない。
私は少年には甘い。
私だけでなくあの男もだが。
今回敵対した捕食者達もだ。
彼は軽やかに駆け抜ける。
思ったのなら、どこまでも軽やかに誰よりも速く駆け抜ける。
その瞬間、誰もが心を奪われてしまうのだ。
抱きしめていた温もりが忘れられない。
これは良くない。
同性の未成年者であるとかよりも、彼は監視の対象者だからだ。
だから、忘れてしまうべきなのだが、忘れ難い。
恋とか愛とか欲望などとは少し違う気がする。
簡単に何もかもを飛び越えてしまう彼が、眩しいのだと思う。
私は職務に忠実であり、必要ならば彼を殺すだろう。
でも、この感情は・・・確かではない、危うい感情は、そう簡単には消えてはくれないだろう。
消さなくてもいい、そうも思う。
彼が空を飛ぶように駆け上がるあの姿を、見ていられる内は。
そしていつか約束通り彼を殺す日が来るかもしれない。
確かに男は日々人間らしくなっている。
でも、男の本質は殺人鬼でしかない。
もし、少年が耐えられなくなる日がきた時には。
私は約束を果たすだろう。
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