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物語の終わり2
あの人は自動車を止めた。
「僕はこんなとこゴメンだ・・・」
ブツブツ言っている。
田舎は嫌いらしい。
「だから一人で行くって言ったのに」
俺は言う。
「ダメだ。僕から離れるなんて許さない」
あの人は言う。
朝早く出たら夜遅くには帰ってこれるのに。
日帰りで帰れるのに。
親元にいた時よりも制限がキツイ。
いいけど。
別に。
片時も離してくれなかった最初の頃に比べたらかなりの進歩だし。
どうのこうの言っても車で送ってくれるわけだし。
「じゃあ、4時間以内には帰ってくる」
俺は言った。
「僕に四時間もここで何しておけと」
あの人は愚痴る。
確かに山奥の車で来れるギリギリの場所だ。
あの人が好きな都会的なものは何一つない。
「・・・連れて来てくれてありがとう」
俺はそう言ってあの人にキスをした。
あの人は黙った。
あんなにブツブツ言っていたのに、一言も喋らなくなった。
ただ、真っ赤になった。
結局のところ、この人はとことん可愛いのだ。
「じゃあ、行って来る」
俺は山奥へ向かって歩いていった。
山の奥へ行く。
奥へ。
奥へ。
出来るだけ人のいないところへ。
色々調べた。
人が来なくて、俺が行けそうで、開発なんかが無さそうなとこ。
わからないなりに考えてここにした。
道から外れて歩く。
印をつけながら歩いているから大丈夫だと思う。
まあ、俺は不死身だしね。
どんどん山奥に入る。
川の音がした。
少し歩けば、近くに川があるのが見えた。
ここにしよう、そう思った。
綺麗な場所だった。
空も見えた。
川も見えた。
ここなら夜には星も見える。
ポケットから木の実を取り出す。
一つ一つ、距離をあけて埋めていく。
あの女の子が花を咲かせ、つけた実だった。
こっそり持ち出した。
禁止されていることだった。
他の人達とは違い俺へのチェックは甘い。
俺は隠してあの閉鎖された団地からこれを持ち出したのだ。
コレがいいことではないのは分かっている。
さすがに植物人間達がここから産まれるとは思わないけれど、何か良くないことが起こるこもしれないけどこうしている。
あの人達がいたことがネットに残る呪いだけなのは嫌だった。
何かが残って欲しかった。
それが良くないものなのかもしれないとしても。
芽を出すかどうかもわからないし。
そう自分を誤魔化す。
何かが起こったならば、それは俺のせいだ。
責任など取れるわけもないけれど。
こんなことをしてしまう俺は・・・正義の味方ではないだろう。
結局何にもなれやしないのだ。
正義の味方にも、
命令に忠実にも、
叛逆の救世主にも、
俺は何にもなれない。
仕方ない。
でも俺はきっと。
この実から、綺麗な花が咲く、美しい樹が育つと思っている。
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