147 / 151
物語の終わり1
女の子はもう枝に覆われ、人間だったとは思えない姿になっていた。
俺はその木の肌を撫でた。
手を繋いでこの場所を歩きまわったのが嘘みたいだ。
彼女とおじいさんは研究所の方へ移される。
街でネットを操作していた半分樹になっていた植物人間も発見され回収た。
集会所に埋められていた少女だった樹も回収されている。
彼も彼女も、完全な樹になったそうだ。
あれから二月。
団地は封殺され、出入りは規制されている。
来週からは全てが取り壊されるそうだ。
女の子は赤い花を咲かせ、今は実のようなものがなっていた。
実は全て回収されている。
どんな可能性があるかわからないからだ。
この実から触手でできた植物人間達が産まれるかもしれないとまで、考えているようだ。
俺は出来る限りここに来る。
あの人も怒らない。
「もう、会えなくなるね。俺では研究所には入れないんだ」
女の子に話しかける。
この事件はカルトのテロとして処理された。
ただ、あの人の演説は今でもものすごい勢いで拡散されている。
あの人を神とする本物のカルトまで生まれた位だ。
ただ。
「悪いことばかりじゃないんだ。君達の過去が明らかになった結果、君達みたいな子を助けようという団体や運動も生まれたし、国も支援をする動きは生まれてきてる」
一人でも救えるかもしれない。
どんなに助けを望んでも、助けられない子供達にのばされる手があるようになるかもしれない。
貧困や虐待を放置することが呪いとなって、無関係だと思っていた者達に返ってくるという、あの人が植えこんだ思想は理想主義よりもはるかに効果があったようだ。
「明日、君は研究所に行く。大切にしてもらえる、と聞いている」
俺はスーツからそう聞いている。
ただ、スーツはあの人とは違って大人なので嘘をつくからわからないな。
俺はため息をついた。
「・・・俺、俺ね、君達が好きだった。本当に」
ここに優しい世界があった。
痛みから逃れた人達が、助け合って暮らす、優しい場所が。
そこは優しい王様が支配する国だった。
多分これがおとぎ話だったならば、優しい王様は末永く王国を治めたのだろう。
植物のような人達がそっと肩を寄せ合い暮らせる場所があったなら、こんな結末にはならなかったのだろうか。
いや、あまりにも傷つき過ぎた人達は、傷付けた者達を深く憎んでいた。
それは当然のことで。
でもだからこそ、こうなるしかなかったのかもしれない。
いや、またいつか。
あの人みたいな人が今度こそ、人ではなくなった人達を率いて、幸せな王国を作り、人の代わりにこの世界を支配するのかもしれない。
その世界は今よりもっと優しいのだろう。
「さよなら」
俺は樹になってしまった女の子に囁いた。
繋いで歩いた手の感触はまだ残っている。
あの人とそういうことをしたことないしな。
楽しかったんだ。
本当に。
俺はその場所を後にした。
ともだちにシェアしよう!