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好きな人
午前の授業を終え、講義室を移動する。
丁度昼休憩の時間帯。渉太は敢えてサークルの教室の前を通り、入る訳でもなく、扉の小窓から顔を覗かせていた。
好きになった人を態と関わりをあまり持たないように避けていても尚、その人の姿を見たくなってしまうのが恋というもので、数名の楽しそうにテーブルを囲っている人達の中からその人の存在を探していた。
「渉太。こんな所で何してんだ?」
数メートル先から声を掛けられ、身体がビクリと震える。構内で自分の名前を呼んでくれる程親しいのは限られているだけに、渉太は恐る恐る振り向いた。
「·····大樹先輩」
案の定、そこにいたのは長山 大樹 。渉太の2つ上の先輩。面倒見がいいタイプで、入りたての頃、サークルでなかなか馴染めなかった自分に唯一声をかけてくれた存在。そして、渉太が密かに恋心を抱いてしまった人。
「そんなとこで突っ立ってないで中入りなよ。渉太も仲間なんだから」
「あ·····いや、結構です」
先輩が扉に近づくように此方に向かってきたので数歩後ずさる。あまり露骨な態度で気づかれまいとしても、鼓動は早くなり先輩の顔を真面に見られない。
「渉太ももっと積極的に参加してきてくれたらなー。最初は沢山、来てくれてただろ?」
目線を逸らしがちの自分に合わせるように大樹先輩は顔を覗き込んでくる。
それだけで緊張して顔が真っ赤になっていないか気になっては、隠すように俯き加減に目線を下に向けた。
確かに最初の頃は普通に参加していた。
大樹先輩を好きだと自覚する前だったから。
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