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記者のように質問責めされていた場所から抜け出してきたのか、参ったように後頭部を掻く大樹先輩が見上げた先にいる。渉太は先輩と目が合うなり、すかさず逸らしては俯いた。今の自分は軽く突っついたら飛び出るびっくり箱のように、少しのことでも感情が隠せなくなりそうだった。
「大樹こそ、あっちで盛り上がってたじゃん」
「彼女いるって言っただけであんな質問責めは勘弁してくれよ」
先輩は深い溜息を吐きながら自分の隣へと座ってきた。
隣に好きな人がいるのに先程の浮かれた気分とは打って変わって、今の時間が憂鬱に感じる。先輩から『彼女』という単語を聞くだけで胸が苦しくなった。渉太は少しだけと思って飲み会に来たことを後悔する。これなら距離感を保って一層のこと知らずに片想いのまま卒業出来ていた方が良かった。
「渉太、顔色悪そうだけど大丈夫か?」
胸の当たりがズキズキと傷んで手で胸を抑えていたせいか先輩に心配されてしまった。
だからって理性が働いて、気持ちのままその場から駆け出す勇気もなくて·····。
先輩に心配されるのも、それによって自分の気持ちが気づかれるのも嫌だった。
「そう、さっきから問いかけても渉太くん、返事ないから大丈夫かと思って·····」
ここは平然を装って、何事もなかったかのように乗り切れればいい。
「大丈夫です。·····あの、先輩、俺も呑みたいです·····」
顔色が悪そうなのも楽しくなさそうなのも先輩に見せたくない。だからって素面でこの感情を耐えられる気がしなくて、渉太はお酒を入れて誤魔化すことにした。
「そうか?」
先輩は半ば信じていないようだったが渉太は無理やりの笑顔で「大丈夫です」と念を押して伝えると「あんまり具合い悪いのに無理はすんなよ」とすんなり引き下がってくれた。
渉太はホッとしたのも束の間に、律仁とか言う男の近くにあったメニュー表に手を伸ばす。
「あのメニュー表、貰えますか」
「あぁ」
男は渉太の変わりように驚いたのか、目を丸くさせてたじろぎながらも手元にあったメニュー表を渡してきた。店員さんを呼び出し、注文をする。
先輩の方を向いてしまうと意識して感情が溢れてしまいそうな気がして、先輩と律仁さんが話している間を聴きながらも目線はずっと俯きがちだった。
暫くしてグラスが店員から運ばれる。ビールは呑めないから甘いカクテルにした。渉太はそのまま見つめると、このまま一層のこと今日のことは忘れてしまえたらいいのにと思いながらもグラスを手に取った。
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