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チェックアウトの10時。 今から学校に向かうなんて身体的にも気分的にも乗り気にはならなかった。 このまま休んでしまおうかと思ったが、休んだら休んだらで色々と自宅で考えてしまいそうな気がし、午前の講義はとっくに始まっているので昼から授業に出席することにした。幸い、大学の近くに住んでいるし、此処は多分大学から近い。一度帰って提出物を取りに帰る時間は充分にあった。 律仁さんに先にホテルのロビーに待っているよう促されたので渉太は椅子に座って、待っていた。本当は人の気持ちを弄ぶような、人から一刻も早く離れてしまいたかったが、助けられた恩があるだけにそうもいかない。 どんなに酷い人でもホテル代くらいは出すべきだと思っていた。 暫くしてから、律仁さんはスマホを耳に押し当てながら忙しなく受付へと向かっていくのを目にした。チェックアウトの手続きを終え辺りを見渡しては、見つけるなり此方に向かってくる。眼鏡に敢えてなのかツバのついた帽子を深く被っていた。渉太は即座に椅子から立ち上がると自分の財布を鞄から取り出す。 「これで足りますか?」 手持ちが余り持っていなかったのである分しか出せなかったが、足りなかったとしても全く出さないよりはマシだろう。 「渉太くんはこれから学校?」 「はい」 差し出したお金に気にも止めずに問いかけてくる律仁さん。渉太の手首を掴んで押し戻してはその動作が一切受け取る気はないと示していた。仮など作りたく無かったが、意地になるのも相手に失礼な気がして、渉太は観念して財布を仕舞った。 「そっか、頑張ってね。俺、用事あるからこれで」 律仁さんは先程と打って変わって、返答する隙もなく、時計を気にしては渉太に一言言っては急ぎ足でその場から離れてしまった。 渉太は余りにも風のように去っていった律仁さんに呆気にとられる。 ホテルの玄関を出てはすぐ様、目の前に止まっていた乗用車の後部座席に乗り込む律仁さんが見えた。 やっぱり高そうな部屋に泊まるくらいだから何処かのお金持ちの坊ちゃんなのだろうか。 結局この人が何をしている人か聞いていなかった。 先輩の友達だから同じ大学の人·····? きっと大樹先輩に聞けば分かるんだろうけど、もう近づくことは辞めようと決めた。 酔っ払いを介抱してくれたことには感謝はしているが、人の恋路を笑うなんてデリカシーがない。この人とは会うこともないだろうし·····。渉太は余計な詮索をするのを止め、ホテルを出ることにした。

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