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あの人のこと

不運なことは立て続けに起こるもので、 あの後家に帰って鞄を整理していると、昨日の朝、講義前に買った律の雑誌が無くなっていた。 鞄から出した記憶はないが、知らぬ間に居酒屋で出したのかもしれない。あとは思い当たるのはホテルくらい。だからと言って、電話をして確認するほどのものではないだけに、諦めは早かった。落胆はしたものの、発売されたばかりの雑誌だからまだ本屋に行けばある。買い直せばいいくらいに思っていた。 そんな不運な日から数日。 渉太は何時ものように午後の講義を終え、構内を出ようと駐輪場へと向かう。 駐輪場の入口で井戸端会議をしている生徒を横目に正直、邪魔だなー·····なんて思いながら通り過ぎる。 「渉太」 唐突に名前を呼ばれて振り返ると、先程通り過ぎたニ、三人の輪の中に大樹先輩がいる事に気がついた。明らかに自分に目線を向けられ、手を振られている。もう追わないと決めた恋の相手に会ってしまうのは決まりが悪い。 きっとあの話は友達経由で伝わっているだろうから尚更。逃げたい衝動に駆られたが、先輩に呼び止められて無視というわけにもいかず、その場に立ち尽くすしかできなかった。 先輩は囲っていた輪から外れると、こちらに向かってくる。渉太は相変わらずの爽やかな好青年さに目を伏せた。 「先輩、こないだはすみませんでした」 先輩が目の前に立った途端に、渉太は深々と頭を下げた。鞄のストライプを握る手が震える。先手必勝ではないが、先輩のことが好きだと伝わってる伝わってないにしろ、ベロベロに潰れていた事実は変わらないから。 「いいよ。渉太の意外な一面が見れて面白かったよ。でも、あの時やっぱりお前具合い悪かったんじゃないのか?」 大樹先輩はあの日の事を思い出しながら、陽気に笑っていた。険悪な雰囲気などなく、いつもと変わりない。 もしかして·····知られてない·····? それどころか、自分に心配の声を向けてくる先輩に渉太は目を丸くした。

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