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そんな憂わしげな先輩を前にして本当は先輩に彼女がいた事がショックでヤケになっていたとは口が裂けても言えない。
「大丈夫です。あの時はただ自分が羽目外しちゃっただけなんで」
当たり障りのない言葉を選んで誤魔化すと
先輩は「そうか?」と半ば疑心した反応を見せては渉太は冷や汗をかきながらも「そうです」と強く言い放った。頑なな渉太を見てか「渉太は真面目そうだから羽目外すことあるんだなー」と納得してくれたようだった。
やっぱり律仁さんは大樹先輩が好きなことを本人に話していないのだろうか。
はたまた、大樹先輩は優しいから敢えて触れないで居てくれているのかもしれない·····。
だとしても大樹先輩の普段と変わらない態度から先程の逃げたい程の緊張や不安は渉太の中から無くなっていた。
「そういえば、あの後律仁が送ってくれたんだろ?大丈夫だったか?本当は誘った俺が渉太を送ってあげるべきだったんだけど、すまんな」
「大丈夫です。なんか俺が酔っ払ってて動けないからホテルに泊まらせてくれたみたいで、助かりました」
「そうか。律仁、渉太のこと気に入ってたみたいだったもんなー」
「えっ·····?」
気に入っていた·····?
優しいかと思えば人の心引っ掻き回して笑っていたあの人が·····?渉太には、ただ自分が友達のこと好きだから面白がっていたようにしか見えなかった。居酒屋時だって字がどうのだとかよく分からないことを喋っていた。
そう言えば結局あのノートは千切らずに放置をしたままであったことを思い出した。
帰ったら破いて捨ててしまおうか·····。
「そんなことないです。ただ輪の中に外れてた俺が面白かっただけだと思うんで」
「んー律仁、初対面のやつにあそこまでしないんだよなー。軽率な奴じゃないし。でも、ちょっと分かるんだよな。渉太ってさ、どっちかと言うと人に寄り付かないタイプだろ?それでいてなんか手懐けたくなる。動物で例えるなら猫みたいな?って失礼だよな。でも、庇ってやりたくなるんだよな」
律仁さんが自分を気に入ってるか軽率な人か人じゃないかより、渉太の中では今、好きな人から庇ってやりたくなるなんて言葉が出てくるとは思わず、動揺をしていた。顔から火が出るくらいに熱くなる。
大樹先輩の言葉から少しの可能性をも探してしまう自分が卑しい。彼女がいるって分かっているのに好意を寄せることを止められない自分がいた。
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