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自分ではそこまで反応を薄くしたつもりはなかったが·····目に写しているものよりも無意識に例の二人を意識してまっていたのだろうか。心ここにあらず状態だったのは確かだった。
「楽しいです」
「なら良かったんだけど。渉太、気にしてるんじゃないかと思ったから」
「何をですか?」
自分が問うと、律仁さんは言わずとも目線で訴えてきていた。見ている方向が明らかに大樹先輩のいる場所だけに何を言いたいのか分かる。
やはり律仁さんには自分の考えていることが何でもお見通しなのか·····。
「分かっていたことなので。だから今日は諦めるために来たんです」
これでキッパリ諦められるとは思えないけど踏ん切りを付けるため。
「諦めるのに遠目で見るだけ?」
「えっ·····」
律仁さんに根本的なところを突かれて動揺する。きっともっと本当に自分の中で完結させるには大樹先輩に想いを告げることだって
心の奥底で分かっている。
だけど、そう簡単に言い出せるもんじゃない。何より誰かに嫌われるのは怖かった。
それが好きな人なら尚更。
誰にも告げづに自分の内に秘めて終わらせる方が自分も傷つかないし、相手を不快にさせないから·····。
「それは。男の俺に告白なんかされたら気持ち悪いじゃないですか」
真面目な声音で話して引かれたくもなく、渉太は少し自虐的に苦笑いを浮かべながら律仁さんを見た。
しかし、律仁さんの目は真剣で1ミリたりとも笑っていない。
「どうかな。俺だって同性だけど、渉太のこと好きだから告白されても気持ち悪いなんて思わないけど。それに俺、好きになった子は猛烈アタックしたい派だから、あまりに消極的な渉太見てると凄い焦れったくなる」
「·······律仁さんは特別なんですよ。そう考えてくれる人は珍しいから·····。それに俺、過去に失敗してるんです」
幾ら律仁さんに言われようが自分には踏み出せない、足枷となっているものがあった。
「失敗?」
「律仁さんが思うようなただの失恋じゃないんで·····。俺にとっては。俺、あっちの方行くんで」
嫌な想い出が再び走馬灯のように蘇って逃げたくなる。これ以上話していると、思い出しては苦しくて耐えきれない。
渉太は律仁さんから一刻も早く離れようと、皆が屯している方へ踏み出そうとした時に、「渉太、待って」右手首を捕まれる。
「良かったら話してくれない?俺、渉太のこともっと知りたいから」
別に話すつもりじゃなかったけど、律仁さんと話していると心の中で固く結ばれて絡まった糸を丁寧に解かれるような気持ちになる。だから怖くて逃げたくなる。
だけど律仁さんからは、からかっているとか面白い半分ではない、真剣に自分と向き合ってくれているのが伝わってきていた。
何時までもこのままでいたい訳じゃない、
だから憧れの律にだってラジオの企画だと分かっていてもあんな葉書を送ったわけだし·····。
話したら何かが変わるだろうか。
自分の中でモヤモヤと渦巻いては蓋をするように閉じ込めていたものを、解放させたらこの人は浄化してくれるのだろうか。
そんな澄んだ瞳に促されるように渉太は静かに頷いた。
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