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渉太の過去

高校は地元の奴らが大半選択肢に選ぶような近くの学校へと進学した。 これまでいいなと思う人がいなかった訳では無いが、恋焦がれるほどではなかった。 惹かれる人もほぼ同性で叶わないと諦めていたせいか、何より自分の中でこの時は推し活が楽しかったので恋愛に関しては言うほど期待はしていなかった。 この時はまだ自ら孤立するほど人間関係を狭めていた訳じゃなく人並みに同級生とも関わっていた。この日も昼休みは中学からの仲良い奴ら3人組と行動を共に屋上へ向かう。 階段を登る途中でどこかで微かに律の曲メロディーが流れてきたのが耳に入り渉太は思わずその場で足を止めた。 姉の影響で好きになった浅倉律。 この時の渉太は今一番恋焦がれている相手は律と言っても過言ではなかった。大好きなアイドルの持ち曲。 仲間の1人に呼ばれて我に返るも、音の根源が気になり先に行っているように促した。 登った階段を降りては微かに聴こえる、聴き慣れた律の曲に耳を澄ませる。 誰かがピアノでも弾いているんだろうか……。 根源に近づく度に確かな音になって行く……。 辿り着いた場所は音楽室だった。 暑い夏の日、空気を入れ替えているのか扉がストッパーで止められ、少し空いていた。

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