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尚弥は誰かと群れるような性格ではなかったので果たして馴染めるのか、屯うことを嫌うのではないかと心配だった。しかし、そんな心配をしなくても友人達は来るもの拒まずの場のノリと勢いで生きている奴らだったからか、尚弥が来てもすぐ受け入れていた。 ピアノだけじゃなくて学年首席の尚弥が仲間に参入してきて、「藤咲がいるからテストは安牌だ」などと崇めている姿は可笑しかった。 尚弥もそいつらのお陰でよく笑っていて、 渉太はそれが寂しくもあり、今までは自分だけが見ていた表情だっただけに、友人達に対して嫉妬もしていた。 二人だけの空間ではあまり気にならなかったのに独占的な心が沸騰した鍋の蓋のようにフツフツと揺らぎ始める。 そんな中でも尚弥は、放課後には必ず自分にピアノを聴かせてくれていたので、それだけが気持ちを抑えておける唯一の救いだった。 尚弥と一番近い存在は自分だと優越感に浸れる時間。 渉太はひな壇に座り、尚哉の隣で律の新しいアルバムのジャケットを眺めながら、ウォークマンで曲を聴いていた。 すると、少し詰め寄ってきた尚哉に「片方貸して」と言われたので片耳だけ渡して一緒にアルバムを聴く。 自分の右耳イヤホンの線を伝って尚哉の左耳へと繋がる。 肩が擦れ合うくらいの尚哉との至近距離が、曲どころではなくドキドキした。だけど、嬉しくて心地がいい。 「律のライブあるんだよね。行ってみたいなー」 今年の夏休み期間中に律がコンサートが開かれると発表された。 尚弥と行けたら·····なんて思ってはいるけど、彼のプライベートな事情はよく知らない。 それにピアニストだからコンテストやらで忙しいかもしれなかった。 「行かないの?」 「男のファン少ないからさ、なかなか一人では勇気でないんだよね」 一か八かで誘ってみようか。 尚弥との距離をもっと近づけたら·····。 この微妙な関係に白黒つけたいと強く願っている訳じゃないけど、欲はないわけでもない。 むしろ、膨らんできている気がする。 「僕で良ければついて行こうか?」 「えっ·····いいの!?」 誘うことを躊躇っていると尚弥からまさかの返事が来て、渉太の身体は跳ね上がった。 「律、生で見てみたいかも」 顎に手を添えて小さく呟いた、尚弥の両肩に触れる。 「行こう!律に会いに!尚弥とライブ行けるなら心強いよ」 律に会えることも嬉しいがそれよりも尚弥と学校以外の場所で会える事の方が、渉太にとっては、この上なく喜ばしいことだった。 尚弥と二人でライブ前は街にでも遊びにいきたい。渉太のライブの日の一日の妄想が膨らむ。ふと、これはデートになるなんじゃないかと思えてきた。 そう思えば思うほど顔が火照ってきて、 尚弥の隣にいるのでさえ居た堪れないくなる。 「尚弥·····それってデートって認識でいてもいいのかな?」 「うーん。渉太がそう思うならそうなのかな」 決してはっきりはしていないが否定はされなかった。だから尚弥も自分と同じ気持ちで居てくれていると信じたい。 渉太はライブの日で少しでも尚哉との距離が縮まればなんて淡い期待を抱いていた。

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