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律仁さんの本気
涙を拭い、気持ちを切り替える。
無性に律仁さんに報告したくなった。
別に慰めてもらう目的じゃなくて、ただ単純に想いを伝えられたこと、逃げずに相手の意思も聞けた。綺麗さっぱりとまではいかなかったが、まだ少しだけ残る苦さはあるけど踏ん切りを付けられたこと。
渉太は高台を降りると、先程律仁さんが電話をしながら歩いていった方を探し始める。
しかし、何処にも見当たらず木陰の奥から大樹先輩の彼女さんが出てきたのを見た。
深くため息をついて、初めてみた時の印象とは真逆で何だか冷めたようなトゲトゲしさを感じて見ちゃいけないようなものを見た気がして、渉太の胸は妙に緊迫し始めた。
あんな温厚で笑顔が上品な、まさに理想の彼女さんがあんな表情を見せるだろうか。
見間違えだったんじゃないかと思って目で追ってみたが既に大樹先輩と合流していた。
さっき見たトゲトゲしさはなく初めて会った時のような温厚な雰囲気の彼女さんのままだったのでどうやら見間違えだったらしい。
「渉太」
そんな彼女さんに目を奪われていると、背後から自分の名前を呼ぶ声がして振り返った。
今まさに探していた人物が立っていた。
「ごめんね、長い間席外してて」
「いいえ」
別に律仁さんを待っていた訳じゃない。いや探してはいたけど·····。
振られた後だったからか、律仁さんの顔を見ると妙な安心感があった。
律仁さんが背中を押してくれなかったら、大樹先輩に対してこんなに前を向けるような告白はできなかった。勇気なんて持てなかった。
「あ、あの·····律仁さん」
素直に感謝の言葉を伝えたい。
唐突に話し始めた俺を見てハテナが飛びそうに頭を右に傾けては言葉を待ってくれている律仁さん。渉太は「有難う」と伝えようと意を決した時、遠くの方から「おーい、渉太と律仁」と大樹先輩が俺たちを呼ぶ声が聞こえた。
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