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先輩と今までよりも長く話ができた。嬉しいけどそうじゃない·····ちゃんと蹴りをつけるために来たんだから伝える事がまだある。 胸の内で言えたんだから、言葉にして、声に出して伝えなきゃ。 俺の声に振り返った先輩、真正面から先輩の表情を見るのは怖いけど、逸らしちゃダメだと自分に鞭を打った。 「あ、先輩あの。俺、先輩のこと好きです」 人も状況も全く違うのに苦しくて蓋をしていたあの時の記憶と重ね合わさる。 逃げたいけど逃げちゃダメだ。 「そうか·····ありがとう。俺も渉太のこと弟みたいで好きだよ」 大樹先輩は一瞬だけ考えた後、優しく微笑んできた。 振り絞った勇気のまた一段階上を試されているような·····きっと先輩には上手く伝わっていないようだった。 このまま「俺もいい先輩として」なんて付け足したら自分の傷は軽度で済むがそんなの 前と同じになってしまう。 うやむやにしたままなんて·····あんなに背中を押してくれた律仁さんの気持ちを無下にはできない。 「違うんです····。ライクじゃなくて。ラブの方なんです·····俺、先輩を人として·····恋愛感情として意識してるんです」 「····そっか」 先輩はこめかみを指で掻くと返事に困っているようだった。 最悪、どんなに悪い反応が返ってきても言われても仕方のないことだと覚悟している。 傷つくかもしれないけど受け止められるくらい強くなりたいから·····。 「渉太·····お前の気持ちは嬉しいけど、ごめんな。俺は渉太をそう言う感情では渉太を見れない」 「分かってます。先輩は大切な彼女さんいますし、別にどうこうしたい訳じゃないです。 俺の中で踏ん切りをつけたかったんです·····」 「ごめん」 「謝らないでください·····覚悟はしていたので、先輩の気持ち聴けただけでも俺、充分です。彼女さん探してあげてください。」 「そっか。じゃあ·····。あ、渉太。たまにサークル来いよ?俺が嫌だったらいない時でもいいからさ。皆優しいからなっ?」 何処まで優しい先輩なのだろうか。 少なくとも冷たく返される覚悟で挑んではいたが、それどころか居場所を与えてくれる。 本当にいい先輩、人として素敵な人。 渉太は「はい」と頷くと先輩は背中を向けて去っていった。 そんな先輩の遠ざかる背中を眺め、自然と涙が零れたが苦しいとかそんな悲痛なものではなかった。今まで溜め込んでいたものを浄化してくれるような清々しさがあった。

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