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別に律に認識してもらいたいわけじゃないけど、律仁さんが関わってるなら少しは記憶にあるかもなんて微かな期待を抱いていただけに少し凹んでいる自分がいる。
「麻倉律仁って知ってますか?結構前なんですけど律仁さんが……俺のために律さんのサインを貰ってきたことがあって………」
サインの話を持ち出した以上会話を投げたままにしてハテナを浮かべている相手に、何も無かったように引き下がる訳にもいかず、サインを貰った経由を律に話す。
律仁さんの名前を出したらピンときたのか「ああー」と言って何かを思い出したようだった。
律が律仁さんのことを知っているなんて、益々あの人は何者なんだろうか。
芸能関係に知り合いがいると訊いただけで、只者ではないと感じていたが……。
「あ、もしかして君が渉太くん?」
「はっ、えっ……あ、そうです」
不意に名前を呼ばれて、驚きの余り上擦った声が出てしまった。
律仁さんの事を知っていてもそれはきっと何かしらの知り合いだからで、たった一度だけ書いた自分の宛名までは覚えているわけがなどないと思っていた。
なのに律が自分の名前を読んでくれた。
鳥肌が立つくらいに嬉しくて、このまま自分は一生分の運を使ってしまったのではないかってくらいだった。
「いつも応援してくれて、ありがとうね。
確かファンレターとかもくれてるよね?」
「はい………読んでくださってるんですね。恥ずかしいです………」
ファンになってからずっと応援する気持ちを伝えたくて書いていた手紙。
新曲がでるたびに、律がドラマに出る度に
もちろん、藤咲 と仲良くなれた時も手紙に書いて報告していた。あれ以降は送ってはいなかったけど……。
「男の人のファンレターって珍しいから何となく覚えててさ、確か字が綺麗だったなーって」
いつも画面の中にいる人物が目の前で動いていて、自分に笑いかけている。
このまま時間を止めてずっと眺めていたいくらいだった。
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