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近づく距離
渉太はこくりと頷いては、律仁さんの提案を承諾した。
大学を通り過ぎ、自宅から差程遠くないパーキングに車を停めるよう促す。
駐車場料金が掛かってしまうし何だか申し訳なくなったが、律仁さんは嫌な顔など一つもしていなかった。
車を降りて歩いて自宅に向かう。
渉太は半歩後ろをついてきている律仁さんを気にしながら何時もの帰り道を歩いていた。
それだけなのに凄い不思議な感じがして、
そもそも友達すらいなくて人と距離を置いていた人間が、自宅に誰かを呼ぶなんてことは律仁さんが初めてだ。
歩きながら緊張で提げているバックの紐を強く握る。
マンションや住宅が建ち並ぶ中の黒い屋根の二階建てアパートで部屋は風呂やトイレもあるワンルーム。
大して見られて困るようなものは置いていないが、本棚は律関連のものでいっぱいだし、yanyanに至っては表紙を見せ置きにしている。
律仁さんには自分の趣味嗜好が既に知られてるし隠す必要はないけど、矢張り突っ込まれるのは恥かしくて、部屋中を見渡しては窓の外をカーテンを捲って眺め始めた律仁さんの隙を見て背表紙置きに変えた。
「こじんまりしてて綺麗な部屋だね。」
漸く深く被っていた帽子をとっては、律仁さんが振り返る。
帽子をとった姿を見たのは、ホテルの時以来かもしれない。その時はパーマっぽいうねった髪型だった気がしたが……。
なんか今の律仁さんは髪の毛をセットしてあったのかストレートな黒髪で律が眼鏡を掛けたみたいでドキっとした。
「まあ、一人暮らしなので……広くはないですけど充分です。律仁さんはきっともっと広い部屋に住んでそうですけど……」
その左手に身に着けている高そうな時計からして自分と同等の生活水準ではないことは明らかだ。
そんな人と今、自分が知り合えていることも、年次を遅らせて大学に通ってることも不思議な話。
そういう地位が上そうな人って大抵、高校、大学進学から卒業まで淡々と進んでいるように見えるから……。
「あーうん。って言っても俺も一人暮らしだから。キッチンダイニングと部屋があと二つつあるくらいかな。でも、こんなに低い位置の部屋は久々かも。道路の車の音とか新鮮」
律仁さんは首を傾げていたが、都心の一人暮らしで渉太からしたら贅沢な2LDKの上に低い位置の部屋と言われて度肝を抜かされた。
「二つ!?低いって……」
確かに二階建てアパートだし、低いといえば低いが、車の音が新鮮なんて一般的なマンションに住んでいたとしても聞かない発言。
この人はどれだけの高層マンションに住んでいるのだろうか……。
羨むどころか、実家もごく一般家庭で過ごしてきた渉太にとっては未知の世界過ぎて想像し難かった。
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