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律仁さんは「吸って大丈夫?」と既にセッティングしてある状態にも関わらず許可をとってきた。 渉太が「大丈夫です」と返すと、運転席側のサイドガラスが一センチほど下がり、律仁さんは煙草を咥え、エンジンをつけていた。 電子タバコを握りながらハンドルを持ち、行先が全く分からないまま動き出す車。 最初はどこへ向かっているのか検討もつかなかったが、見慣れた大きな車道に出た時に大学方面に向かっていることに気がついた。 また大学のところまで送ってくれるのだろうか……。 「ねぇ、渉太って大学の近くに住んでるんだしょ?家どこ?」 最初の信号が止まったタイミングで律仁さんに訊かれては、渉太は無意識に自宅が大学から2つ目の信号を曲がったところにあると告げた。 すると、律仁さんが「おっけー」と返事をしたところで、この車が自宅に向かっていて、 その為に律仁さんが聞いてきたのだと悟った。 渉太は律仁さんの方を向いては慌てふためく。 「って、えっ!?もしかして車、家までですか?俺、こないだみたいに駅まででだいじょうぶ……」 「単なる送り迎えかと思った?」 「えっ……」 「せっかく逢えたのに駅まで送ってバイバイなんて寂しいじゃん?俺、渉太ん家行きたいいなーって思ってるんだけど?」 律仁さんが自宅に来たがっている……。 少し律仁さんと会話をして調子が戻ってきたと思ったら全身が緊張で微かに震えた。 「こないだ約束したじゃん?今度、渉太ん家教えてね?って」 夏の日の別れ際の約束が有効だとは思わなかった。 律仁さんがアイドル顔負けな爽やかさで微笑んでくる笑顔に圧を感じて逃げ道がない。 そもそも運転の主導権は律仁さんにあるから承諾しようが拒否しようが目的地は必然的に自宅に着くのだが……。 自宅に上げるくらいどうってことはないし、何なら律仁さんともっと話をする時間ができる。自分にとっても好都合じゃないか……。 ひとつ問題があるとするならば、自宅のアパート前に来客用の駐車場がないから近くのパーキングに停めるしかない事ぐらいだった。

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