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後ろの壁沿いにある、律が載っているアイドル雑誌の本棚から一冊を取り出しては律のページを開く。 割と最近の号で緩い寝巻きのような格好で淡いピンク色のクッションを抱いて目を瞑り、うつ伏せてるページの一角。 今の律仁さんを見比べて息を呑んだ。瓜二つと言っていほど似ている。 愛らしい寝顔姿の律と、律仁さん。 雑誌を持つ手が震え、渉太は困惑していた。 そう言えば、自分が律に会えたことを話すのに夢中で肝心な律仁さんと律の関係を聞きそびれてしまっていた。 結局、律仁さんが何の仕事をしているのかも分からないまま。 律仁さんの家族のことは分かっても、彼自身のことを未だに良く分かっていない。 『渉太はさぁ……もし好きな人が芸能人で付き合えるってなったらどうする?』 唐突に律仁さんが問いかけていた事が反芻された。 まさかそんなはずは無い。 あの有名で誰からでも愛されて、 女性なら誰もが恋人にしたくなるような存在の律が目の前で眠っているなど有り得ない。 こないだだって初めて会った素振りだったし、当然のこと。それに、ファンとして『応援してくれてありがとう』と笑顔を向けて挨拶してきてくれた。 すぐ何かにつけて冗談だとか、急に抱きしめられたりだとか、俺を翻弄しておちょくってくる律仁さんとは違う。 ただ、時折見せる笑顔とかはにかんだ顔が律と重なるとこがあるけど……。 それにきっと、そうだとしても律仁さんの口からちゃんと言うはず。 ただの他人の空似。自分も律を少し身近に感じてしまい、そう浮かれたような発想になってしまっただけに違いなかった。 渉太は色々と勘繰ってしまいそうになるのを頭を左右に振って払っては、雑誌を閉じて本棚へとしまうと部屋の電気を消しては、静かにベッドに潜り込んだ。

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