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大樹先輩がアイドルだった……!?
想像がつかない。
「えっ?でも、相方さんもっと幼いイメージが…」
確かにアイドルだったら爽やかな優等生の立ち位置だろうとか勝手に思っていたが、まさか本人がそうだとは思わない。でも、姉貴に借りたことのあるCDでは確かに格好良い爽やかさはあったが、まだ成長期の幼さもある印象があった。
パッと見ただけでは面影があまり感じられない。それに名前だって律の相方では永山大輝 だったから同一人物だなんて結びつかなかった。
「あの時の俺、14くらいで律が17。辞めた後すげぇ背が伸びて声変わりしたから」
隠すことではないと言っていたが、過去の話をするのは恥ずかしいのか大樹先輩の耳が血色づいて照れているようだった。
その証拠に「俺の昔話はいいんだ」とすぐさま話題を戻される。
「その繋がりでさ、律……いや、律仁とは昔からの幼馴染みたいなものなんだ。辞めてからもお互い馬が合うから今でも仲は続いててさ。実は……渉太が律のファンだってことも知ってた」
大樹先輩には俺が律のファンだということは言ってなかった。言う機会もないと思っていたのもあるし、男が男のアイドルのファンだというのを引き金に自分の大樹先輩への気持ちをバレたくなかったのもあったから……。
じゃあ、あの時やっぱり先輩は俺の気持ち知っていて……なんて思っていたら、「もちろん。だからその渉太が俺に告白してきたときは正直驚いた」と言ってきたので、先輩にまで疑りの目を向けてしまったことに反省する。
「愛華はその界隈では有名なアイドル狙いらしくてさ俺の事を律と組んでた元アイドルだって知って近づいてきてたんだ。
信じたくはなかったけど、あの日に接近して律に振られた腹いせで記者に売ったんだと思う」
あんな上品で温厚そうな見た目からじゃ分からない裏の顔。ふと一度だけあの天体観測の日に彼女から刺々しい雰囲気と表情をしていたことを思い出した。あれは写真の後のことだったんだろうか。
律仁さんは大樹先輩から彼女を奪った訳じゃない。それに関してはホッしたが、大樹先輩から別れたと告られた日の無理な笑顔の裏にはこんな悲痛なことがあったのだと思うと胸が痛んだ。
「俺、業界に居たって言っても14までだからさ、最近のそういうの知らなくて律仁に「あの女はやめとけって」注意されてたんだよ。だけど、彼女のことは本気で好きだったし、知ったような口をしてくる律仁に意地になってた。結局律仁には迷惑かけちゃった……」
大樹先輩は「ホント渉太に好かれるほど俺、できた人間じゃないんだよ」と言っては悲愴感を漂わせながら俺に笑いかけてきた。
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