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先輩も先輩で傷ついているのに、申し訳なさそうな表情を見せると終始組まれた指が解かれることは無かった。
「渉太。今は律にあんまり世間への波風立たせたくないんだ。渉太は悪い奴じゃないって分かってるけど、ほとぼりが冷めるまで、律仁が来ても会わないでやってくれないか?」
そこに恋愛感情があろうがなかろうか、自分は律のファンには変わりない。
ファンが本人と一線を超えるなんてしちゃいけない。だから大樹先輩の言っていることは正しかった。
この事実を知ってそれでも会う選択を選ぶような図々しさは持ち合わせてない。
それに、律仁さんからの愛情を感じているから尚更。
「何回も言ってるけど律仁は渉太のこと尋常なくらい気に入ってる。今この状況でも、あいつは仕事の合間を縫ってまでお前に会いに行きたがるくらい、渉太に入れ込んでるんだよ。ましてやドラマももうすぐ終わる。また、立て続けにスキャンダルのネタになるようなことは、あいつの為にもあいつと関わってる周りの為にも避けたい」
「大丈夫です。俺、芸能の人と関わり持つとか勘弁して欲しいですし……。律仁さんだって別に最初から仲良くしていた訳じゃないので、ほとぼりが冷めるまでとかじゃなくて、これからも俺は会うつもりないです」
第三者の大樹先輩から見ても分かるくらい、俺が俺なんかを好きでいてくれている律仁さん。嬉しいけど、辛い。
目頭が熱く、視界が涙でぼやけそうになる。
俺はちゃんと大樹先輩に心配をかけないように真面に話を聴けているだろうか……。
一通り大樹先輩から話を聴いた後、講義室を後にした。やっぱりここでも先輩の紳士は変わらずで駐輪場まで送りにきてくれた。
帰り際、「渉太……なんか困ったことあったら言えよ?」と気に掛けて貰ったのを満面の作り笑顔で返しては先輩を安心させる。
一人になって自転車を押しながらの帰り道は、涙が止まらなかった。
自分の左腕で拭うが、律仁さんのことを思い出す度に溢れてくる。
自分の気持ちを騙した。
本当は事実を知っても尚、会いたくてたまらなかった。
だけど、律仁さんにはもう会えない。
いや、会っちゃいけない。
律仁さんは律だから。
律はみんなのアイドルでいなきゃいけない。
律自身が商品である以上、プライベートの行いは必ず切っても切り離せないもの。
ひとつの悪行で世論の反応なんてどんなに印象が良かろうとも一瞬で覆る。
こんなゲイの一般人の俺なんかと付き合っていたらそれでこそ律の評判が落ちる。
律の活躍を応援している人達、律の笑顔で元気を貰って、生きる糧にしている人達を傷つける。だけど会えないと分かれば分かるほど、律仁さんが好きだと自覚しては渉太の胸が痛くなった。
自分はなんでまた辛い恋の選択をしてしまうんだろう。
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