106 / 295
*止まらない衝動
朝からドラマ撮影、雑誌撮影をして全ての仕事が終わり、律仁は社長室に呼び出されていた。
自分を稼ぎ頭にしたくて6才やそこら辺で気づいたら母親に入らされていた事務所。そして当たり前になったこの業界。
年に1,2回会うか会わないかの社長と顔を合わせたのは久しぶりだ。
茶色いスーツで自分の親と同じくらいの年齢の白髪混じりの頭、痩せ型で吊り上がった目が特徴の中年男。
此処、大手岡嶋 芸能事務所の社長室に呼び出されたのは他でもない、女との写真を撮られ、売られた件。
社長室に呼ばれて早々ディスクに乱暴に雑誌を投げつけられ「明日それが世の中に出回る。そしてネットではもう話題だ。あんまり面倒を起こすな」と軽い説教を受けた。
別に社長は自分が法に触れるような事件を起こさない限り厳重注意で怒鳴り散らかしてはこない。
社長室を出て深く溜息が出る根源は隣にいるマネージャの吉澤明良 だ。
「はぁ、じゃないだろ。溜息を吐きたいのは俺だ」
社長室から持たされた「週刊文秋」と書かれたその雑誌を手にして丸めては、それで吉澤に頭を軽く叩かれる。
いけすかない眼鏡にきっちりとセットされた髪型に灰色のスーツ。年齢は40代後半で俺が幼い時からの付き人。
自分は片親だから父親というものがどういうのか分からないが、まるで親父かのように容赦がない。
「プライベートはお前に任せてるし、遊ぶなとは言わない。せめてドラマ終わってからにしろ。よりによってお前がアレに引っかかっるのはタチが悪すぎる」
「別に遊んでたわけじゃない。あの女が勝手に抱きついてきただけだし、俺はちゃんと突き放した」
アレとは大樹の彼女の仲島愛華 だ。
業界裏では有名で若手のアイドルを片っ端から狙っているという噂の要注意人物なだけにマネージャーである吉澤も勿論知っている。
それで、吉澤が掛け持ちしている若手が事後の寝顔写真が流出して干されたとか何とか……。
裏ではアイドル潰しの魔性の女だとか言われてたりする。若手狙いだし、俺には早々回ってこない話だろうと思ってた。
しかし、大学で大樹の彼女だと紹介されて嫌な予感がした。
大樹は7年程前に芸能界を辞めている。
女は現役を狙っているだろうし、大樹なんてもはや一般人だ。だから、ただ単なる男女交際には思えなくて何か裏があるんじゃないかと踏んでいた。
決して真面と言えない女、大樹にも注意をしたが相当惚れ込んでいたのか「お前がなんと言おうと関係ない」と突っぱねられた。
ともだちにシェアしよう!