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もう絶対行かないとは言いきれない。
今の仕事が終わったら、合間が出来たら真っ先に渉太に話に行きたい。
「お前さ、俺も人のこと言えないけどこれを機会に渉太と距離置いて一度頭を冷やした方がいい」
深刻な表情をしては、大樹の放った言葉に一瞬だけ律仁の思考が停止する。
「はぁ?なんでよ」
今までの何処を掻い摘んで、そういう考えになるのだろうか……。
仕事で会えないのですら、もどかしいのに渉太と距離を置くなんて意味が分からなかった。
「最初、お前宛の早坂渉太のファンレターから部員の渉太の名前に食いついて、引き合わせてやったけど、お前がそこまで渉太に入れ込むとは思ってなかった。今のお前、周りを見なさすぎて余裕の無さが滲み出てる」
余裕がないのは当たり前で渉太をたかだかこんなことで手放したくないからだ。
「そもそもお前の場合は、渉太は律のファンなんだろ?アイドルがファンに手を出すなんてご法度だろ?」
自分も周りの意見が耳に入らないほど、仲島に惚れ込んでいた癖に大樹の物言いに腹が立った。
そんな律仁など露知らずに大樹の何時もの説教じみた尋問が始まる。
こうなってくると、耳に障るほど鬱陶しい。
自分も痛いほど、それが如何に自分の今後にも渉太にも安全な道ではないだという事が分かっているからこそだ。
「俺さ理屈っぽいの嫌いなんだよ。好きなのにアイドルとファンが付き合っちゃ駄目とか誰が決めたんだよ。俺も一人の人だし、自由に人を好きになる権利あるだろ?
それがたまたま渉太みたいな……律が好きな一般大学生だっただけ」
「そういう事じゃないだろ。律には沢山のファンがいて……渉太の気持ちだってある。お前が渉太を好きってことは渉太も巻き添えに……」
吉澤かと思うくらい説教くさい大樹にヤキモキしながら思わず堪忍袋の緒が切れてテーブルを蹴り飛ばした。
大樹はその物音にビクリと身体を震わせる。
「あーあーリツリツリツってうるせぇ。
俺の本名、律仁なんだけど」
忙しない日々の中、渉太と会いたくても会えないこと、自分が吐いた渉太への嘘、週刊誌の出鱈目な記事、大樹の説教、全てが重なって律仁は腸が煮えくり返るほど頭に血が上っていた。
律仁は立ち上がると大樹の胸ぐらを掴んで立ち上がらせる。
「お前が言えたことかよ、俺が忠告しても聞かなかったからこうなったんだろ?」
言うつもりなんて責めるつもりなんてなかったが、思ってもいないことを口走る。
大樹の瞳の奥が少し揺らいで、言い過ぎたかと後悔はしたが、それよりも渉太への想いが強すぎて折れる気にはなれなかった。
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