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「でも、渉太が俺に辛い過去を打ち明けてくれて、渉太が前に進もうとしてるのをみてさ、俺も律から逃げるんじゃなくて渉太に俺自身でも、律であることも含めてもっと知って欲しいとも思った」
律仁さんから熱い視線を感じたと思ったらテーブルの上に置いていた右手を両手で包むように握られて、渉太は思わず喉を引き攣らせた。
辺りを見渡すと店主はグラスを拭いていて此方に目線を向けていない。店主と会話していたお客さんも既に居なくなっていてホッとしたが、誰かが入ってきて気づかれてしまったらと思うと気が気じゃなかった。
渉太は「律仁さん、離してください。花井さんはどうにかなっても今度こそ誰かに見られたら、流石に不味いです。律仁さんはこれ以上騒ぎを…」と小声で話すが視線から全く聞く耳を持ってくれる様子はない。
それどころか言葉を遮っては、「俺は渉太を離さないよ」と手も目線も離してくれなかった。
渉太は律仁さんの手の中で指を抗わせたが、それよりも強い力で包まれて、力で負かされてしまう。
「嘘をついていたことは申し訳ないと思ってる。だけど、渉太が好きなことは変わらないんだ。俺は渉太に背中を押されて、律の仕事も頑張れてるようなものだから。律とか芸能人だからダメとかじゃなくて、俺はこれからも渉太の傍にいれたらと思ってる」
律仁さんからの熱い告白に頭がクラクラして倒れそうになる。
今までの人生で一方的に好きになることはあっても誰かに好きになってもらえることなんてなかった。
そして、それが自分の好きな人であるということも。
「俺は律さんにも律仁さんに何もして無いです。それに何で俺なんですか?律仁さんの周りには綺麗な女優さんとか魅力的な方が沢山いるじゃないですか……」
最初からそうだった。
ただ揶揄っていただけだと思っていた律仁さんの「付き合わない?」という言葉。
律仁さんは俺よりもずっと沢山の人に出会えている筈だ。ただ失恋で泥酔していた大学生よりも、綺麗で品がある女優さんの方が何十倍も魅力的に決まっている。
もし、自分が律仁さんだったら目をくれない
くらい俺は地味でちっぽけな人間なのに……。
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