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そこに書かれていたのは 「浅倉律の新曲発売記念握手会イベントの参加券」だった。律がデュオの時から数えて、デビュー10周年になる年。記念年にファンへの恩返しと称して滅多に開かないイベントが開催されるのを渉太はもちろん知っていたし、新曲も買っていたが参加するための抽選に応募はしなかった。 自分には会う権利がないから……。 「い、いいです。俺そもそも律さんに会っちゃいけないし、陰ながら応援してるだけで充分です」 渉太は封筒の中身を戻しては先輩に返そうと突き出したが、先輩はなかなか受け取ってくれず、逆に突き戻されてしまった。 先輩がどういうつもりでコレを渡してきたのか分からない……。 俺と律仁さんがもう会わないようにしていることは知っている筈なのに……。 「渉太さ、あの時嘘ついてたんじゃないか?」 渉太はどうすることもできない封筒を持ったまま一点を見つめていると、大樹先輩の問いかけに顔を上げた。 「嘘って…」 「俺が渉太に律仁のことどう思っているか聴いたとき。律仁のこと何とも想ってないなんて嘘だろ?」 ふいに図星を突かれてドキッとする。 何とも思って無いわけないと胸の内で訴えながらも‘‘ただの知り合い‘‘と口にした。 大樹先輩に嘘をつくのを躊躇いながらも本音を口には出せなかった。 「………」 だからといって嘘に嘘を重ねるのも肯定することも出来なかった渉太は黙り込んだ。 月日が経って気持ちが薄れていくことを期待していても、律仁さんと過ごしたこと、貰った言葉は胸に深く刻まれていて、どこかで清算できていない自分がいるのは確かだった。 「まぁ……二人のことだし無理に俺に話さなくてもいいんだ。だけど渉太はさ、踏ん切りつけるために勇気を出して俺に告白してくれただろ?振った俺が言うのも無神経かもしれないけど、渉太には自分に素直でいてほしい。その方が数倍いい顔してるからさ」 あくまで他人の事情に踏み込みすぎずに一歩引いては絶妙な距離を取りながら、背中を押してくれる大樹先輩。律仁さんは俺の話をさり気なく促しては黙って聞いてくれて寄り添う律仁さんとは完全に真逆。 どっちがいいとかじゃないにしても俺へ向けてくれている優しさには変わりないのに、律仁さんは自分の心ごと包んでくれているような気がして…暖かくて……。 俺はやっぱあの人が好きなんだろうか……忘れられないんだろうかと胸がじーんとした。

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