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「すみません。俺、大樹先輩に嘘つきました。律仁さんは雲の上の人のような存在だから。俺のような唯のファンが好きって言っちゃいけないって思ってて……」 今更大樹先輩に打ち明けたところでどうにかなる話じゃない。律の活躍からして律仁さんはもう自分のことは吹っ切れて、別の誰かを見ているかもしれない……。 「そうだな。世間体的にはファンとアイドルが一線越える関係になるなんて俺はお勧めしないよ。バレた時のリスクの方がでかい。あのときは状況が状況だし、あいつも動転して正気の沙汰じゃなかったから渉太に引き離すようはこと言ったけど、俺個人としては、渉太もあいつと一緒にいることで幸せになれるならそれでもいいと思ってるんだ」 大樹先輩は「好きになったもんはそう簡単に止められないだろ?アイドルだろうとなんだろと一人の人間には変わりないんだから」と言っては口角を上げて笑う。その優しい笑顔に胸につっかかっていたものが落ちた気がした。 「俺のアイツへのお詫びでもあるから、渉太、俺の厚意を無駄にしない為にも鞄にしまっとけよ」 笑ったかと思えば、急に眉を吊り上げてキツい口調で言われたので、渉太は慌てて謝りながら鞄の中に封筒を収めた。 かと思えば「そんなビビらなくても冗談だから安心しろ」と何時もの優しい表情に戻ったので、類は友を呼ぶじゃないけど、先輩も律仁さんみたいに冗談を言うことがあるのだと、この2年間見てきて初めて知った。 「行くか行かないかは渉太に任せるよ。 俺のことは気にしなくていいからな?だけど、渉太が自分の気持ちを誤魔化したり、納得してない決断したら、友達として本気で渉太のこと俺怒るからな」 軽くお説教を食らっているのに嫌な気はしないのは、先輩が自分のことを友達と認識してくれたからだった。 律仁さんと喧嘩なんかもしたりしていたみたいだからあの優しい大樹先輩が怒るとどうなるのか気になったりはするが……さっきの表情からきっと怖そうに違いなかった。 少し離れた所からから「せんぱーい。一緒に写真撮っとくださーい」と大樹先輩を呼ぶ声がした。 先輩は「おう、分かった」と返事をすると「渉太、ごめん。たまに見かけたら宜しくな」と右手で謝るポーズをして仲間の方へと行ってしまった。 先輩の背中を眺めながらも顔が広いから、先輩と話すのも一瞬だなーと思っていると急に何かを思い出したか、先輩が踵を返してきた。 そして、頭にポンッと手を置かれると「あいつ、親に愛されなかった分。自分が好きな人に与える情は深い方だから、渉太を簡単に切り捨てるようなやつじゃないって俺が保証するよ。だから、渉太が心配する必要はないよ」と言い残しては再び去って行ってしまう。 大樹先輩は、そう言っているけど律仁さんが今でもあの告白の時のように自分のことを考えてくれているとは限らない。 だけど律仁さんと自分は……。 自分は律仁さんとどうなりたいのか。先輩の言う通り、自分の気持ちを優先してもいいのだろうか。 渉太は鞄へと閉まった封筒から再び参加券を取り出しては途方にくれていた。

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