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憧れはすぐ側で

4月下旬の休日の晴れた日の夜。 渉太は珈琲店アトリエの窓側の席に座っては緊張で何度も溜息を吐いていた。 今日は大樹先輩から貰ったお昼からの律の握手会当日だった。ギリギリまで躊躇いながらも踏み出す決断をしたのは家を出る数分前。 握手会は一部、二部制で渉太が持っていたのは一部の午前から昼の部。 会場に着いてから、律のコンサートでさえ参加したことのなかった渉太にとっては初めて見る光景だった。 大きいドーム型の会場に沢山の人の数。 このイベントは抽選だと大樹先輩が言っていたが、多分数千人単位じゃないだろうか…。 それくらい律のファンが多いというのが人目見ただけで分かるくらいの人の多さだった。 来ている人たちも様々で学生っぽい若そうな女の子達や濃いめの化粧に髪の毛をくるくるに巻き、めかしこんだお姉様方に小さい子供を連れた親子。 集客数もだが、これから律は、こんだけの人と握手すると思うと凄いと同時に本当に遠い存在の人に自分は今から何をしようとしているのが場違いな気がして、踵を返したくなる。 しかし、それじゃあ大樹先輩に合わせる顔が無くなる。律仁さんに本当の自分の気持ちを伝えるにはこの方法が最後のチャンスだと思った……。 握手列に並んでいる間も時折帰りたくなっては、大樹先輩のことを思い出し、気持ちを奮い立たせる。 一人あたりの所有時間が短いのか徐々に律の元へと近づいていく。前に進んで行くうちに1時間程で、律が中にいるであろう間仕切りボードの前まで辿り着いた。 中の様子は全く見えないが、微かに聴こえてくる「今日はありがとう」の声は紛れもなく律で、「キャー」と出ていく女の子達の声も聴こえた。本当にすぐ近くにいるんだと実感する。渉太は久しぶりに会う人に緊張で手が、震えてきては右手を左手で握った。

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