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あの時の律仁さんも今の俺と同じ気持ちだったんだろうか。 「ほら、律仁が頼んだホットサンド、君も食べたろ?」 「はい……美味しかったです…」 律仁さんと別れ話をしたあと、勿論律仁さんが頼んでくれたホットサンドは食べた。 確かに美味しかったけど、あんな状況だっただけに素直に幸せに満ち溢れるような美味しさは感じなかった。 じっと自分が食べ終わるまで待ってくれていた律仁さんからの視線と空気の重々しさ。 もっと幸せな気持ちの時に食べたかった。 悲しくも苦しい思い出が甦る……。 「俺に頼むとき『俺の一番大好きなヤツが食べるから今まで以上に美味く作ってよ』って言ってきてたんだよ」 そんな律仁さんの想いも込められて、あの時頼んでいたなんて思わなかった。それに、店主にまで『大好きなヤツ』と公言していたことに少し羞恥する。 そんな律仁さんの気持ちを自分は律のため、顔も知らない誰かのためとか言いながら逃げていただけなんじゃないだろうか。 自分さえ我慢すればいいなんて……本当は律仁さんのこと好きなくせに……。 「律仁のこと、君は知ってるだろうけど、あんな職業だから人に対しての警戒心は強い方なんだ。だからあの子の周りは昔から誰もいなくてさ、強いていうなら大樹くらいだろ?だけど、君には随分心を許しているみたいだから珍しくてさ」 店主の話を聞いていると唐突にお店のドアが勢いよく開けられ、目線を移した先には律仁さんが息を切らしながら入ってきた。 「あぁ、噂してるうちに君の待ち人来たようだね」 その姿を見て、渉太は咄嗟に立ち上がると、店主はスっと下がってはゆっくりカウンターの方へと戻っていった。 ぜーぜーと呼吸をしながら真っ直ぐ俺の方へと向かってくるのは、先程着飾っていた洋服とは違う。いつものハットを被った律仁さんだった。 「まだ、いてよかった」 時刻はまだ午後の九時半。そんなに遅い時間ではない。明確な時刻は言っていなかったけど、ずっと待つつもりでいたから慌てたように入ってきた律仁さんに驚いた。 「律の時に、律仁さんなんて反則でしょ」 胸を叩いて息を整えながらも、テーブルにあった俺の飲みかけの珈琲を遠慮なく口に含んでは飲み干した。 「すみません……それ以外に会う手段なかったので……でも律仁さんだって俺にいつも一方的じゃないですか……」 どの口が反論しているんだと自分で突っ込みたくなったが、律仁さんは怒ったような素振りは見せていなく、「ごめん…」とだけ呟いた。

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