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渉太は扉がパタンと閉まる音と同時に喪失感にかられ、自分が蹴り飛ばした後の律仁さんの辛そうな顔を思い出す。
律仁さんを傷つけてしまった……。
自分でも笑いたくなるくらい情けない。
律仁さんは悪くない。
過去の話は律仁さんに細かく話したわけじゃないし、知らないのは当たり前。
だから事情を知らない律仁さんからしたら
、恋人から拒絶された挙句に蹴り飛ばされるなんて最悪としか言い様にない。
恋人同士なのだから、あの流れはごく自然な事だった。
相手も自分に触れることを望んでくれているのだから喜ぶべきなのに、自分は律仁さんを受け入れる覚悟が出来ていなかった。
少なからず、自分だって律仁さんと抱き合ってキスして、そのうちそうなることを望んでいたはずなのに………。
もう少し強くなれていれば。受け入れる覚悟を強くもっていれば…なんて、後悔が後を絶たない。渉太は膝の皿に額をつけて、目を瞑っては深い溜息を吐いた。
頭を冷やしてくるなんて言っていたけど、律仁さんは怒っているだろうか……。
暫くしてリビングの扉が開かれる音がして顔を上げる。渉太は咄嗟に立ち上がるとブランケットを脱ぎ捨て、律仁さんの元まで駆け寄った。
「あの……律仁さん、さっきは……ごめ…」
「渉太……俺の事、怖い?」
改めて頭を下げて謝ろうとした時、律仁さんは俺の身長の高さになるように屈んできては右手を包むように握ってきた。
少し不安そうな顔をしてそう問いかけてくる律仁さんに、渉太は首を大きく左右に振って否定をする。
「良かった。怖がらせてごめんね。もう渉太に無理はさせないから」
強ばっていた表情が安堵したかのように和らいだのが判ったが、何処か腑に落ちない。
きっと律仁さんが思うことの方が沢山あるはずなのに紳士的に対応されて、渉太は心を咎めていた。
自分が謝りたくてもその隙を与えないようにしているのか、律仁さんに笑顔で「渉太も今日は疲れたでしょ?お風呂入っておいで」と促される。渉太は、これ以上このことに関して触れることができず、大人しく頷くしかなかった。
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