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お風呂から上がると、律仁さんは窓の外を眺めて物思いにふけているようだった。渉太の「ありがとうございました」の声に気がつくと入れ違いで浴室へと向かっていった。 声をかけるべきだと思っていても、こんな空気にしてしまったのは自分のせいなだけに、何から切り出していいのか分からず、律仁さんを行かせてしまった。 リビングにある6畳程の客間には自分用の布団が敷かれていて、いたたまれなくなった渉太は、布団に潜り込んだ。 今だって不謹慎にもこうやって律仁さんの少し大きなスウェットを借りてドキドキしてるのに……。確かに好きな筈なのにその先を、受け入れることが出来なかった。 暫くして「渉太……?」と言う律仁さんの声がリビングから聴こえてきたが、律仁さんに言葉を交わさず出ていかれた手前、自ら出ていく勇気がなかった。 渉太は、布団を頭から被ってはギュッと端を掴んで目を瞑る。僅かに律仁さんの気配を感じながらも、少しだけ布団から漏れていた光が、なくなったのが判った。布団から顔を出して確認すると部屋の電気を消してくれたようだった。 明日改めてちゃんと謝ろうと思って再び目を閉じるものの、気にすれば気にするほど、律仁さんのことを考えてしまっていた。 律仁さんも気にしてるだろうか……。 流石に蹴るのは自分でもなかったと思う。 あんなに離れないって宣言しといて、恋人を蹴り飛ばすなんて……。 それに、自分も男だし好きな人に触れたいと思って我慢する気持ちの辛さは分からなくもない。 律仁さんと目線が合った時、優しさの奥に何処か悲しさを感じた。せめて律仁さんが嫌いで突き放した訳じゃないんだと伝えなきゃと思った。 動いてしまった思考は止められず、気づいたら渉太はゆっくりと起き上がっては布団から抜け出す。 律仁さんも既に寝ているかもしれないが、それはそれで諦めればいい。 リビングから出ると、直ぐ右側の扉の前に立つ。律仁さんの寝室だと、部屋を上がった時に教えて貰った場所。 渉太は、一度躊躇っては深呼吸をした後、扉をノックする。 叩いて間もなくして、部屋の中から「はい」という声がして、渉太はレバーハンドルを倒して部屋の中へと入った。

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