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今更無駄だと判っているが、律仁さんの煽りに動揺したのを誤魔化そうと「い、行きましょう」と言って観客が入っていく正面入口の列に並ぼうと踏み出したところで服の裾を引っ張られた。 「渉太、俺たちはあっちから」 律仁さんに引っ張られては振り向くと、「関係者入口」と書かれた張り紙の方へと手首を掴まれては引かれる。その矢印が明らかに会場の裏側を指していた。 一瞬だけ驚いて呆気に取られていたが、よくよく考えれば幾ら帽子に眼鏡で変装しているからって律には変わりない。 お客さんの年齢層から騒ぎにならないとしても、可能性が少しでもあるなら避けるのは当然のことだし、芸能人がプライベートだとしてもイベント事に参加する時は大抵関係者として扱われることは聞いたことがあった。 何の躊躇いもなく関係者入口へ向かっていく律仁さんの後を追いかけながらも、渉太は内心躊躇っていた。 幾ら付き添いだからとはいえ、こんなごく普通の一般人がこんなところから入っていいのだろうか……。 律仁さんに手を引かれるがままに進んだでいたが、入口前まで来て妙に緊張した渉太は抵抗するかのように足が竦む。 そんな渉太を察してか、律仁さんが背後に回ってくると背中を軽く押して「今は俺の連れなんだから堂々としていいんだよ」と囁かれては、意を決して足を踏み込んだ。 たかが会場内に入るだけとはいえ、後ろめたさが無いわけがない。 会場内に入ると、首から「staff」と書かれたネームを下げたスーツの男性に案内される。 前方に男性と話しながら並んで歩く律仁さんの後ろを辺りを見渡しながらもついてく。 自分の見た事のない世界に戸惑うばかりだった。 途端に男性と話し込んでいた律仁さんが振り返ってきては立ち止まると、渉太も足を止める。 「渉太。俺、楽屋に挨拶しに行ってくるから、渉太は座席で待ってて」 「はい」 今日の出演者の中に律仁さんの知り合いでもいるのだろうか………。 ましてや人気アイドルで顔も広そうだし……。 正直一人にされるのは不安なところだったが、座席に着いて待っているのであれば余りソワソワする必要もない気がし、渉太は否応言わずに頷いた。

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