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個室のドアに背もたれを沿うようにして屈むたと、肩を抱き、吸って吐いてを繰り返して目に涙を浮かべながらも呼吸を整える。
大丈夫だと自己暗示をしながら深呼吸を繰り返しているうちに次第に気持ちも落ち着いてきていた。
掌で目元を拭い、冷静になった頭で考える。
尚弥に最後に会ったあの日、彼は留学すると言っていた。てっきり日本にはいないものだと思っていたけど4年も経てば帰ってきてたりするんだろうか……。
世間は狭いとよく言うが、ここまでピンポイントで再会することになるとは思わなかった。
律仁さんが2番目に出演する人に挨拶をしてきたと言っていたから、間違いなく尚弥のことだろう……。律のデビュー曲を弾いていた放課後の音楽室。俺との別れ際、律のことをあんなに貶していた尚弥が何故、律と仕事をするようになったのか分からない。
分からないけど律仁さんは、尚弥の演奏を気に入っているようだったし、嬉しそうに話してくれていた。
「渉太?いる?」
個室の外から律仁さんの声がして、扉を叩かれては、咄嗟に立ち上がる。俺の事を心配して律仁さんが追いかけてきてくれたようだった。
嬉しいけど、一番見られたくない、知られたくない姿なだけに、なんて誤魔化せばいいだろうか。
かと言って何も言わない訳にはいかないし、昨日の今日で律仁さんとの溝を作りたくもなかった。
これから律仁さんが仕事をする人が過去の自分の好きだった人で不登校になった元凶だったから逃げ出したなんて言えない。
だけど、こうなってしまった以上避けることはできない。
渉太は個室の鍵を開けるとゆっくりと扉を開けた。丁度個室の目の前に立っていた律仁さんと目が合うなり強く抱き竦められる。
「びっくりした。渉太凄い青ざめてたし、何かあったんじゃないかと思ったら怖かった」
「心配かけてしまって、すみません…」
律仁さんの体温が密着した体から伝わる低めの声が温かく自分の心ごと包み込んでくれている見たいで、心地がいい。
「渉太、なんかあった?」
両肩を掴まれては顔を覗き込まれたが、先程の涙の跡を気にして少し顔を俯ける。
「何でもないです。少しお腹が冷えてしまったのかも……もう大丈夫です」
律仁さんに嘘はつきたくない。
だけど、どんなに優しい律仁さんだとしても過去の醜態を話すことに関しては未だに勇気はなかった。
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