172 / 295

※※

渉太も未だ入ったことがない、入る予定すらない大学院の校舎内を案内される。 同じ大学でも雰囲気がガラリと変わって白衣の学生もちらほらと見かける。 辺りをキョロキョロ見渡しながら普段と違う 、校舎の雰囲気に緊張する。お腹の空くような匂いがしてきたかと思えば、辿り着いた場所は構内の食堂だった。 「ごめんな、あんまり時間なくて食堂でいいか?」 「大丈夫です。俺も、かえってすみません」 専属が券売機へと向かう前に「渉太もいるか?」と問われ、首を横に振ろうとしたが、匂いに誘われてか、渉太のお腹の虫が鳴り出してしまった。 しかも、そこそこ大きな音……。 渉太はお腹を抑えては恥ずかしさのあまり、俯いた。 一方でそれを耳にした大樹先輩はくすりと笑うと、「学食でよければ。俺のと同じでいいか?」と微笑んできては、渉太は頑なに断るわけにもいかず赤面させながら静かに頷いた。 流石に奢らせるのは忍びないと思って、お金を出そうとしたが、断られてしまう。 そんな気にしている渉太を気遣ってか、大樹先輩は「食堂くらいじゃ比じゃないだろうけど、渉太に奢るの律仁と張り合いたいから付き合って」と冗談交じりに言われてそれ以上に返す言葉がなく、渉太は素直に「ご馳走になります」と好意を受け取ることにした。 大樹先輩にまでこんな自分は優遇されて、果たしていいのだろうかと恐縮する。 焼肉丼が乗せられたトレーを受け取り、空いてる座席へと座る。 大樹先輩とは、長卓の奥の一番端で向かい合って座った。 なんだかんだで、大学でも学食のような人の多い場所を避けるために自分で昼食は用意していたから学食は新鮮だった。 安くてボリュームがあると良く聞くが本当に言葉通り。今日はバイトから帰ったら晩御飯食べずにすぐ寝れそう。それくらい腹持ちが良さそうだった。 「やっぱり、大学院は忙しいんですか?」 「まぁー課題とか予習に終われるとか勉強ばっかりだな。遅い時だと10時くらいまで研究してるよ」 「先輩は凄いです……俺だったら悲鳴あげてます」 日頃の大学の授業でさえ、追いつくのに必死なのに院でも、授業プラス夜まで研究なんて大樹先輩の身体が心配になるくらいだった。 渉太は慈愛を込めて「体に気をつけてください」と言うと先輩は「ありがとう」と返してきては、区切りがつく。 いつ切り出すべきか考えながら食事に集中していると、一呼吸おいて「渉太、藤咲のこと聞きたいんだろ?話せることは少ないけど……」と大樹先輩からの誘導により話は本題へと切り替わった。

ともだちにシェアしよう!