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大樹先輩は納得したように頷くと、顎を触りながら少し考えたように口を開く。 「まあ……ちょっと、うちの兄が昔、藤咲にピアノ教えたりもしててさ、その関係でな」 確か、大樹先輩の家族は音楽一家だと律仁さんが言っていたのが記憶に新しい。 そんな中で藤咲と繋がりがあるなんてかなりの確率ではあるけど、こうも自分の身近で巡っているものなのかと驚きを隠せなかった。 大樹先輩に「どうした?」と問われたので、自分が余程アホ面をしていたのだと気がつくと、ぽかんと開けていた口を閉じた。 「あ、いや。ちょっと驚いたんです。律仁さんから先輩は音楽一家だって聞いてはいたんですけど、まさか藤咲くんと繋がりがあると思わなくて……」 「ああ、律仁が。俺も渉太が藤咲のこと知ってるとは思わなかったよ」 それはお互い様だから当然のこと。 大樹先輩のお兄さんが藤咲の専属の調律師だった……。先輩も少なからず藤咲と関わりがあるのだろうか。 「はい、ちょっと……昔の友達ってだけなんですけど……昔、藤咲くんとちょっとあって……蟠りを解けたらな……って。あの、先輩。良かったら藤咲くんのこと教えて貰えますか?」 渉太は純粋に藤咲の事が知りたかった。それで蟠りを解けたらなと思っているのも本心から出た言葉。 昨日藤咲に出会えてなかったら、彼が悲しそうに顔を歪めていたのを見ることはなかった。自分の中でトラウマとして逃げ続けていたかもしれない。 これも自分の自己満足に過ぎないかもしれないけど、人と向き合うことを逃げていた自分から本当の意味で抜け出さなきゃと思った。 殻に閉じこもって距離を取り続けていた自分が先輩への告白も、律仁さんと向き合うことも出来たのだから過去の自分と向き合うこと だって出来るはず。 大樹先輩は「そうか」と頷いては「ここじゃ、なんだし場所変えるか?」と提案されて、渉太は自転車を元の位置に戻し、鍵をかけて大樹先輩の後へと着いて行った。

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