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花井さんと別れて、駐輪場に向かうと見覚えのある顔が誰かと話し込んでいる姿を目のあたりにした。
大樹先輩だ。
先輩に会ったのは卒業式以来なので何だが安心感を覚えたが、その表情は険しい。
相手の顔はこちらに背面を向けていて分からないが、友好的ではないような雰囲気が漂う。
久しぶりに話しかけたかったが、とてもそんな状況ではなさそうだった。
丁度大樹先輩が話し込んでいる二つ手前が自分の自転車の位置。
別に隠れる必要はないけど、近づける様子でもないので渉太は忍びのように身を屈ませながら自分の自転車の元まで向かう。
鍵を開け、静かにサイドスタンドを下ろした
つもりだったが思いの他、音が出てしまい、先輩と目が合ってしまった。
「渉太じゃないか」
名前を呼ばれ、その場に立ち止まる。
同時に先輩と話していた人が振り返って此方を向いてきた時、心臓がドキリとした。
「大樹先輩……えっ……尚弥」
こうも短時間に会うものなのか……。
後ろ姿に見覚えはあった。しかし、尚弥がこんな所に来るとは思わないし他人の空似かと思っていた。そんな尚弥は、渉太のことを一瞥するなり先輩が「おい、藤咲」と呼ぶのを無視し、逃げるようにその場を去って行ってしまう。
何をしに来たのだろうか……。
やっぱり俺の事許せなくて
先輩は藤咲を追いかける訳でもなく、深い溜息を吐くと此方へとゆっくり近づいてきた。
藤咲のことは気になったが、見てはいけないものを見たような気がして、渉太は目を泳がせていた。
「久しぶりだな。渉太」
自転車のハンドルを握りながら、「お久しぶりです」と軽く会釈をする。
「なんか見苦しいところ見せたみたいで、悪いな」
「いいえ……俺は全然……」
大樹先輩に謝られるどころか自分のタイミングが悪すぎたとしかいいようにない。
それよりも、あの様子から藤咲と大樹先輩は面識があるような素振りだった。じゃなきゃあんなところで話し込んでいるわけがないし……。
「大樹先輩って藤咲くんと知り合いなんですか?」
素朴な疑問を投げかけた所で先輩が小首を傾げたので「俺、藤咲くんと高校の同級生だったので……」と付け足した。
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