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「渉太、今律仁の方が人気だったの納得しただろ?」と茶化すように言われて、ドキリとした。先輩を前に見え透いた嘘などつけずに、小さく頷くいたが、慌てたように「先輩も爽やかな正統派って感じで格好良かったと思います」と付け加える。 律は自分の推しだし、恋人だしどうしても贔屓目で見てしまう。だけど、こうやって今もだが、アイドル時代共に律と肩を並べても違和感のなく一年間ユニットを組んでた大樹先輩も凄く魅力があったからこそだと思った。 「ははは。渉太はやっぱり優しい奴だな。お世辞でも嬉しいよ」 お世辞じゃなくて本当のことを言ったのだが、イマイチ伝わったていないみたいで何処かもどかしさを感じる。しかし当の本人は、全く気にしてないのか、微笑んだままだったので、これ以上先輩の意見を否定するのも墓穴を掘るような気がして辞めた。 すると、先輩はコップの水に手を添えて水面を眺めては遠くを見るような目をしていた。 「喧嘩もあったけど律仁を見てると刺激もあって、こうやってやりたいこと見つけられたのもあいつのお陰だし、辞めたのは親父のこともあるけど、こいつとはこのまま仕事のパートナーとして張り合うんじゃなくて、普通の友達でいたいって思ったんだ」 大樹先輩の話を聞いて、過ごしている環境が違ってもずっと一緒に付き合っていきたいと思える人がいるのは素敵なことのように感じたと同時に自分にはそこまで想えるほどの友人がいないだけに、羨ましく思う。 これが俗に言う悪友というやつなんだろうか。 「嫌いなところがあったとしても、こいつだったらまぁいっかって思えるんだよなー。 憎めないっていうの?」 確かに律仁さんに意地悪されても嫌な気はしない。きっと生まれ持った愛嬌なんだろーな。 「渉太もだぞ?」 「俺も!?ですか!?」 「渉太の場合は憎いとこなんてない、いい子だから、けどな。だから心配になる。俺から見たら渉太も律仁も放って置けない存在だよ」 渉太は大樹先輩にべた褒めされて嬉しいような、恐れ多いような気持ちになる。 形はどうであれ誰かに必要とされてる存在であるのは嬉しいことだから。 学食を食べ終え、少しだけ大樹先輩から律仁さんのちょっと天然な面白可愛い話を聞かされて、くすりと笑った後に食堂を別れた。 いつも揶揄われてばかりだけど、少し仕返しが出来るかもなんてウキウキしながらバイトまでの道のりを自転車で走る。 ふと信号で止まった時、律仁さんにも大樹先輩にも花井さんにも俺はみんなに放って置けないなどとか言われてばかりで、逆の立場になったとき自分が放って置けないのは誰だろうと思った。 勿論律仁さんもだけど、真っ先に尚弥の顔が浮かぶ。 尚弥は誰かに必要とされているんだろうか。 寄り添ってくれる人はいるんだろうか。 散々傷つけられたけど、尚弥にも尚弥の事情があったんだと思ったら怖いだとか関わりたくないだとかじゃなくて、俺になにか出来ることはないんだろうかと考えてしまっていた。

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