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先輩の身体が微かに震えてる。
先程、藤咲との関わりを諦めたような雰囲気を漂わせていた先輩が、今こうやって頭を下げていることに危惧しているようにさせ見える。
「藤咲、申し訳ない。律仁から事情を聞いたよ。俺たち家族も兄の所在は知らなかったんだ。まさか、調律師としてお前とこんな形で再会させてしまって、本当にすまないと思ってる」
恨めしいような、だけど何処か悲しさを滲ませているような、酷く顔を歪ませる藤咲。
「あいつの触ったピアノなんて嫌だと思うけど、律仁の友人として今回だけは出てやってほしい……律の大切なライブなんだ。お願いします」
今自分が目にしてるのは大樹先輩と藤咲とマネージャーさんとの内輪の問題。事情を知らない渉太はただ見ているだけしかできなかった。
見ているだけでも、息を呑むような緊迫した空気に飲み込まれそうで、手に汗が握る。
「君がアイドルしてたことは知ってたけど、まさか律と仲良いとは思わなかったよ。律が律がってよく言えるよね。友達思い?笑える。僕があんたの兄のせいで苦しんでた時、なんも助けてくれなかった癖に」
「それは……藤咲、ごめん」
一向に顔を上げずに頭を下げたまま藤咲に必死にお願いをする先輩に対して、冷たい視線を向けている藤咲。
「いいわ。大樹くん、悪いけど。尚弥、行きましょう」
そんな二人の間に割って入るようにして、恭子さんが先輩のことを避けるように藤咲の肩を抱いて連れていこうとした時、藤咲はマネージャーさんの肩を力いっぱい押しては引き剥がした。眉を釣りあげ、酷く激怒している様が藤咲から伝わる。
「あんたもっ、俺は許してないっ。あんたも知っててなんで隠してた?あんた、知ってた筈だろ?こっち来てからの調律は全部奴がやってたって?アイツから全部聴いた」
「ごめんなさい。でも|古林《ふるばやし》さん体調崩してしまって……お弟子さんがたまたまあの人だったの」
「あの人だったから何?あんたは親父とあいつの不倫が嫌で離婚したんじゃないの?普通弟子でも頼む?あんな奴に」
母親のマネージャーさんに対して貶むような藤咲の瞳。そして、先輩のお兄さんを罵倒するような言葉。
渉太はあの日の自分と交差して逃げ出したいくらい震え上がりそうになった。
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