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「ただ隣で話を聞いているだけの君に自然と僕の心も綻んでいることに気づいたんだ。
君の話を聞いている時間は心地が良くて、僕のことをピアノの優等生だとか性的な対象だとか見ているのを感じさせない君のことを少しいいなと思うようになってたんだ」
身構えていたのが無駄だったかのように、藤咲から自分を褒めるような言葉を聞いて思わず、瞳を丸くする。
さっきまで一文字に結ばれていた口角が微かに優しく上がったの見て不覚にもドキッとしてしまった。4年越しに聞く藤咲の本音に渉太は戸惑った。
付け足すように「散々悪く言ってきたけど今君のことが好きな律の気持ちは、あの時の僕が感じた君に対しての気持ちと同じな気がして少し分かるよ」と話してきたので、自覚はないけど律仁さんも俺との時間は律を忘れさせてくれるような事を言ってきていたことを思い出した。
「だけど、同時に渉太の長い時間過ごすにつれて渉太になら触れてみたいだとか近づきたいだとか思う自分に怖くなった。渉太はあんなに純粋なのに、僕はあの父親とたちと所詮同じなんだと思ったら吐き気がして、そんな思いをさせた渉太に勝手に腹が立って、あんなことをしてしまったんだ」
藤咲は深々と俺に向かって「ごめんなさい」と膝に手をついて謝ってきた。
その姿さえ、無駄に姿勢が良くて見とれそうになるが、そうじゃない……。
渉太は慌てて藤咲の頭を上げさせた。
「尚弥のその感情は……一緒なんかじゃないよ。俺がいうのも変だけど……本当に好きな人ならキスしたいだとか触れたいだとか思うのは自然なことだから……。でもそれを大切な人がいるのに裏切る君の父親と尚弥は全く違う。それに俺は純粋なんかじゃない、俺も少なくとも思ってたし、尚弥に嫌われて当然だと思ったから」
俺にも俺の非はあるから、藤咲に謝られる立場じゃない。
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