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律仁さんは渉太が幾ら褒めても納得はしていないのか、眉を顰めていた。
「それは有難いし、嬉しいことだよ。俺自身も周年だろうと地方コンサートだろうと常に200%のつもりでやってるけど、欲って尽きないんだよね。こうしたらこうしようって、もっとこうした方がファンの子たち喜ぶんじゃないかって考えられずに居られないんだ」
「職業病かな」と眉の皺を解いて呟いてみせた律仁さん。律の真面目さ、仕事に対するひたむきさはちゃんとみんなには伝わってる。だから、あれだけの人が集まってみんな律を応援してる。
「そんな律さんの真剣なとこみんなに伝わってます。そんな律さんをみて皆今日も頑張ろって思えるんです。応援したくなるんです。俺が言うのもおこがましいですけど……」
「ありがとう。でも今日は最高にいいライブだった。一時はどうなるかって不安もあったけど、大樹から聞いた時は藤咲くんのこと渉太は絶対連れ戻してきてくれるって信じてたから、安心して歌うことができたよ」
律仁さんは「でも…ちょっと、こうさせて」と言っては片足をソファに乗り上げて向かい合わせてくると俺の肩口に額をつけてきた。今日一日、律仁さんは相当気を張っていたんじゃないんだろうかと思わせるほど、脱力したように肩に寄せてきたので、無理に引き剥がすこともできず、渉太は両手を上げて戸惑っていた。
映像の律仁さんは常に笑顔だった。
『安心して歌うことができた』なんて言っているけど藤咲が戻ってくる保証のない中で
不安を表で隠しながらも、ファンの期待も周りへの感謝を背負ってのコンサート。
完璧な律の本当の内側の部分に触れた気がした。普通に生きていても責任重大な場面がきたらを疲弊するように、アイドルだって一人の人。
ファンの見えないところで苦しんでいたとしても沢山の人の前に立てば夢与え、期待に応えなきゃいけない。だからこそ落ちる時だってあるはず、律仁さんはずっと、辛い顔を崩さずにそういうものと戦ってきたんだろうか。
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