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「おはようございます……」 「眠れた?」 律仁さんに抱気絞められている腕に、優しく響く声が心地良くて安心する。 「少し……あの、律仁さん仕事は…」 コンサート後だからと言って売れっ子の律仁さんは仕事がないわけではないだろう。時間を忘れるくらい焦った様子のない律仁さんに咄嗟に浮かんだ素朴な疑問を投げかける。 「今日の仕事は夜のラジオだけだから」 ラジオと言ったら深夜に渉太が何時も聴いているやつだと真っ先に思い浮かんだ。そういえば、律仁さんに出会う少し前にお便りを読まれてぬか喜んでいたっけ……。当時の自分が今の状況を見たら気絶するに違いなかった。 「渉太、午後から大学だよね、時間大丈夫だった?」 ベッドのサイドテーブルにある目覚まし時計に目線を向けると、時刻は正午の少し前。 律仁さんの自宅から大学まではそこそこ距離があるし、そもそも一度帰宅しないと道具もない。完全に授業には間に合わない時間だった。 「車で送るよ?」なんて表では紳士的な発言をしていても、行動は正直なのか俺から全く離れる気のない律仁さんが意地らしい。 「大丈夫です。もう間に合いませんから、今日は俺もバイトまで律仁さんとゆっくりします」 「そっかー。渉太、悪い子だーって揶揄いたいところだけど、良かった。俺もまだ渉太とゆっくりしたいって思ってたから」 別に相手の雰囲気に流されたからじゃなくて、渉太自身もまだ一緒に居たかったからだ。授業なんかよりも今はこの幸せを噛み締めていたい。『明日から頑張ります』だなんて心の中で、何処にいるかも分からない神様に誓ってみる。そんな間の抜けたことを考えてしまうくらい渉太は浮ついていた。 「俺、今なんか凄いふわふわしてて変な感じです」 「それは幸せの証拠?」 渉太はくるっと律仁さんの胸の中に収まるように寝返りをうっては、深くと頷いた。 腕の中に収まった俺を猫でも撫でるかのように優しく後頭部を触られる。 「こんな俺でもちゃんと人と好き合えるんだって思えたから……律仁さんを好きな事、諦めないで良かったって思いました。……俺、律仁さんが好きです」 改めて本人に『好きです』なんて言うのは恥ずかしいけど、伝えずにはいられない。 更にキツく抱きしめられる身体に、律仁さんの体温が直に伝わる。

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