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飲み物が運ばれてきて、気を取り直して律仁さんの「おつかれー」の音頭と共に乾杯をする。当然、藤咲は乗り気じゃなくて乾杯すらする気のない姿を見兼ねた律仁さんが無理やり藤咲のグラスに自分のグラスを近づけていた。
「そもそもなんで俺を呼んだんだ?」
メインのお肉が来るまでの間、律仁さんと大樹先輩を中心に会話が展開されては、藤咲と俺はただ耳を傾けているだけだった。
「渉太と出会わせてくれたお前への恩返し。
独り身の大樹に新しい出会いのキッカケ与えてやろうかと思ってさ?まぁ新しいと言えるかはグレーだけど」
大樹先輩が俺を飲み会に誘ってくれなかったら、あの時行こうと思わなかったら、俺は律仁さんと出会うことはなかったのだろう。
そう思うと奇跡のようなもので、確かに藤咲と大樹先輩はあの後会っていないように思えた。今日がなかったらきっと二人は仲違いをしたままキッカケを掴めずにいたに違いない。律仁さんが事情を知っているのかは判らないが、律仁さんの事だからそういう人の気持ちを汲んで気を遣ったのだろうか……?
少なくとも俺からは大樹先輩が藤咲と仲直りしたそうに感じていた気がしたから………。
「『はぁ?』」
前方の座席二人から同時に重なる声に驚いては、それに気づいた藤咲が舌打ちをする。
「浅倉さん気持ち悪いこと言わないでくれますか」
「そうだ、俺と藤咲は別にそういうんじゃない……」
律仁さんの提案に賛同していないくせに、お互いの意見は合致しているのが見ていて面白かった。少し慌てている大樹先輩を初めて見たかもしれない……。
「そんなこと言って浅倉さん警戒してるんじゃないんですか?僕と渉太が観覧車乗った仲だから……」
静かに二人の様子に笑っていると急に話の矛先を自分に向けられて渉太はハッとした。
別に藤咲と観覧車に乗ったのは、真面目に話をするのにごく自然な流れだった。だからと言って特別何かあった訳でも、隠していた訳でもない。
なのに、恋人よりも先に前好きだった人と恋人とのデートの大定番を経験してしまった後ろめたさを少なからず感じていた。
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