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律仁さんと共に……①

「ほんとだ、律のポスターあるじゃん」 リビングで夕飯を済ませた後二階へと繋がる階段を上がって正面にある渉太の部屋へと向かった。 部屋に入るなり、律仁さんに一番見られたくないものを見つかってしまい、渉太は慌ててポスターに駆け寄ると、剥しにかかった。勉強机の真横に飾られた律のポスター。少し年月が経っているのか角が焼けている。 律仁さんが晩御飯の時に父親に勧められてお酒を呑み始めたあたりから自宅に泊まるのは確定され、泊まるのであれば自然と自室になる。 入ってくる前に剥そうと頭の片隅に思っていたが、蟹に蟹しゃぶにお寿司と豪華な晩御飯と両親と姉と綾瀬くん、律仁さんの大勢で食事を囲うことなど、滅多になかったことから渉太自身も楽しくて、部屋に入ってくるまですっかり忘れてしまっていた。 「これは……。その違うんです。自宅に持って行けないから実家に貼ったままにしていて……」 「今更、隠す必要ないでしょ?それに渉太、わざわざ俺が家に来たら、俺の表紙の雑誌とかアクリルスタンド棚の奥に隠していること俺が知らないとでも?」 「なっ……」  ポスターを丸めながら、苦し紛れの言い訳をしてみたが、律仁さんにはお見通しなのか口元を緩ませながら顔を覗き込まれる。 「いいから、寝ますよ。明日律仁さん此処、早く出るんですよね?だとしたら早めに休まないと……」 律仁さんは明日も夕方から仕事だというので、翌日の早朝に此処を出て都心に戻ることになっていた。ホント、仕事の合間を縫って此処まで飛んできた彼には度肝を抜かされる。 渉太はそんな律仁さんの視線から逃げるように部屋の中心に垂れ下がっている、蛍光灯の紐を引っ張って電気を消した。 その真下には、母親が用意してくれていた客間用の布団。律仁さんが泊まるにあたって、彼を煎餅布団一枚の床で寝かせるのは気が引けた渉太はベッドに寝るよう提案したが「ベッドは渉太の匂いで興奮して眠れなくなりそうだから今日は止めとくかな」と皆が楽しんでいる手前で耳打ちされたのが数時間前。 渉太は自分のベッドに乗り、足だけ潜り込こませて、寝る準備をする。部屋が暗くなったことにより、律仁さんも布団に入るかと思えば、窓際に近寄るとカーテンを半分ほど開けて、外の景色を眺めてた。 唐突に「煙草吸ってもいい?」と問われたので頷くと、「寒かったら言って?すぐに閉めるから」と気持ち程度に窓を開け、ズボンのポケットから電子煙草を取り出し吸い始める。煙を吐き窓枠に背中を預けてぼんやりと外を眺めている横顔は、アイドルらしからぬ姿ではあったが、どこか美しく感じた。 暗闇と月明かりがそう思わせるの、かどこか寂しそうにもみえる。 「それにしても梨渉ちゃん、ちゃんと両親に理解してもらえて良かったね」 「はい。知った時はどうなることか、冷や冷やでしたけど……。家族のことに律仁さんも巻き込んでしまってすみません」 と思えば笑顔で問うてくる律仁さんに違和感を抱きながらも、渉太は軽く彼に向かって頭を下げた。  

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